爬虫類タイプ







雑草プロにまた新人が入ってきた。
今度は25才の女で全くの素人。

もちろんトレスも未経験でかなり酷い…

別室に呼んで話をしてみたが、全くの素人が故の怖いもの知らず…

と言うよりはどこか変…

普通はプロの絵やトレス線を見せると、多少は驚くものだが、全く驚きもしない。
それどころか、「フンフン、なるほど…」と知ったかぶり。

俺に対しても時々タメ口が出る。
かなりプライドが高そうだ。
何を話しても「フンフン」という言葉が続く。

アニメ音痴なのに、好きな作品だけは語る。自分自身が全くわかってない夢見る夢子ちゃん。
人の話を素直に聞かない。知ったかぶりで話をかぶせてくる。謙虚さが全く感じられない。

「フン、フン」

この人物は駄目だ。会社組織にはそぐわない性格だ。いや、社会性に欠けてる。

普通だとアニメの仕事の厳しさに打ちひしがれるんだろうが、こういったタイプは違う。「打ちひしがれる心」そのものさえ存在しない。
完全な個人主義者で、権利だけ主張して協調性は無い。

プライドの高い人間ほど、それを正当化しないと、自分が壊れる。壊れたくないから、自分自身で責任はとらない。そして最後は他人や環境のせいにして辞めて行く。

ことアニメーターに限って言えば、俺は長年の経験と臭いですぐにわかる。
言葉は悪いが、分かり易く言うと、こういうタイプは、爬虫類のようなタイプなのだ。

「情」というものがわからないから、仕事も機械的でしかない。まともに相手するとこっちが怪我をする。

担当は他の人間に任せて、俺は邪魔はしないが、協力もしない。自力で這い上がってきたら認めることにしよう。

そう思ってスタジオに戻ると、「あれぇ? 柳田さん、今日はやけに早いですねぇ…」と、みんな不思議そうな顔。

「駄目、どうせモノにならない。」俺がそう言うと、一人が「そうですか、今まで柳田さんが外したことは一度も無いですからね。」と納得顔。

ベテランの一人が続ける。「そういえば今日、柳田さんが来る前にあの人に応対したんですけど、舐められてたまるかって空気プンプン漂わせてましたよ。」と続けた。

案の定その女、帰りに俺に挨拶もしないで、目の前を通り過ぎて行った…

ここは言葉が話せれば、誰でも入れてしまうアニメプロ。他ではこういうタイプは絶対に入れない。まず実力以前に面接でアウトだ。

ここに流れて来るアニメーターを目指す若者達は、社会性に乏しくそれに適合出来ない人間も多い。

本人はそれでいいと思ってる。それまでそれで生きてこれたわけだ。
家の中に引きこもって好きな事をして、先輩達との上下関係すら経験してこない。道徳に反してもそれを注意する人間もいない。

そして自由を履き違えて権利だけを主張する。熱い血が通ってない爬虫類タイプなのだ。
雑草プロはアニメ界の大道ではない。周りが雑草の「獣道」だ。それでも少しは役に立っている。
獣が歩けば道になる。

大通りを歩きたかったら、まずはモラルのある人間にならなくちゃな。
爬虫類だと獣道も歩けない。

また来週に未経験の新人が入って来る…
制作の人間が持って来た履歴書を見る限り、全く期待出来ない。
必要最低限の事しか書いてない。
出身地さえ、親の名前も実家の電話番号も空白…そして高校卒業で終わってる…
卒業してから現在に至るまでの数年間も無記入…

よくもこんな人間を入れるもんだと感心してしまう…

すぐに居なくなるに決まってる。「憧れだけ」でアニメの世界に入って来る若者が多すぎる。

そう文句を言いながら、それを楽しんで戦ってる俺も変わり者。