スターティンググリッド

                                                                                                           2014/09/16





8月に入ってきた新人が急に元気が無くなってきた…
入った当初は元気いっぱいで、「僕は最低でも作監になる!」と豪語していたのに、今は無口になり、笑顔も無くなってしまった…(カッコウの卵参照)

おそらく、何もわからず画面を通したアニメしか見てこなかったから、想像と現実のギャップに戸惑い自信喪失になってしまったのだろう。

例えて言うならば、K-1をテレビで見ていると、ミルコクロコップやボブサップが強いのはわかる。
だが、ミルコやサップを対象にしていると、角田さんはおそろしく弱く見える。
それを見て、「まてよ、俺だって空手をやってる身、ミルコは無理でも角田ぐらいだったら、いい勝負ができるんじゃないか。」といった具合に、アニメも甘く考えていたのだろう…

ところが、いざ角田さんを目の前にしたら戦意喪失…
角田さんどころか、その門下生にすら歯が立たない…
そんなアニメ界の現実を味わって、凹んでしまったのだろう。

俺は初めからこうなる事は予想していた。脳ある鷹は爪を隠す言葉通り、大風呂敷は広げない。
彼はあまりにも現実がわかってなかったし、自分も見えてなかった。
そして夢だけを広げてた。そして今は妙に焦っている。

一度退社したはずなのに、突然夜中に会社に現れて、「もう少しやらせてください。」と言い出した。

俺「焦っちゃ駄目だ。今日はゆっくり休め。」

新人「いえ、少しだけでもやらせてください…」新人の顔面は蒼白で危機迫る表情だ。

俺「君が今やって、急に上手くなるんだったら俺はやらせる。だけどそんな事しても、すぐに上達なんかしないし、今は焦らないでやれよ。」

新人「でも…」

俺「アニメは急に覚えられるもんじゃないし、君の場合は全くの素人からのスタートだ。急に覚えられると思ってるなら、君はアニメーターをナメてることになるぞ。」

新人「…」

そう言っても帰ろうとしない。

俺「君がここに残ってたら、これから帰ろうとしている人間だって帰れなくなるじゃないか、少しはみんなの事も考えてくれ。」新人にそう言うと、やっと諦めたのか、「わかりました。」という言葉を残して帰って行った。

彼にとっての今までのアニメは、「ギャラリー専門」で、アニメの知識などは全く無い。未だセルワークすら理解してないのだ。
彼の焦る気持ちは少しはわかるが、それよりも一番大きかったのは、自分のあまりにも出来ない不甲斐なさだったに違いない。

それでいいんだ。自分を知る事ができたから、彼はこれからスタート出来る。
レースに例えるなら、やっと最後尾からスターティンググリッドに付けたんだ。今までは単なる街の暴走族。

今は雑草プロの草レースだけど、いつかはカテゴリーを上げてF-1目指して頑張ってくれ。
俺の雑草プロでの、刺激的なレッドシグナルもいずれグリーンシグナルに変わる。

雑草プロの反則まがいのレギュレーションが続くなら、レギュラードライバー全員がいなくなる。