雑草達のクーデター



どこの世界でも同じだと思うが、底辺で働く人間は奴属的な環境で働かされる。
それはこのアニメ界でも同じだ。
雑草達は将来を夢見て、低賃金で食うや食わずの環境で頑張っている。
特に下請けプロはもろに影響を受ける。

だが、人としての心や尊厳まで踏みにじられれば、人間は反抗もする。
そしてそれがあわや、国際問題にまで発展する恐れのある騒ぎもあった。
ある大手のプロデューサーの心ない発言で、雑草達は憤慨した。
それは、とある会社の作品の動画チェックのあまりにも横暴さに、雑草達は苦しめられ我慢の限界にきていた。
最初の指示と全く異なるリテーク、あるいは動画チェックのその時々の感性でのやり直しが命じられ続けた。
そのチェックはまるで重箱の隅をつつくような、アニメ界の暗黙のルールを無視した内容が続いた。

例えば数十人もの人間が動けば、動画の作業は並大抵じゃない。たった一枚描くのに何時間もかかり、収入にも影響する。
そのチェックは、数十人の人間の一人の1ミリほどの線の繋がりが抜けていても許さない。
チェックする方も作業する方も同じアニメーター同士、通常はその大変な作業に対して、相手に敬意を払って、1ミリぐらいの線なら足すのがルールであり人情である。

ところが「これでは色が塗れません!」と鬼の首でも取ったかのような高飛車な文面と共に戻ってくる…

その文面を書く文字のストロークより、1ミリの線を足す方が早いのにも関わらず、制作進行を使って車で一時間近くかけて戻してくる。
制作進行もいい迷惑である。

驚く事に進行が動かない休みの日には、わざわざ宅配便まで使って1ミリほどの直しを送ってくる。
金もかかるし、宛先を書く方が大変だろうに、威厳を示すためか、わざわざそういう事までしてくる。
他のアニメ会社では、そんな無駄でくだらない事はしてこない。
こちらだって、先方からの伝票の枚数が違っていたり、誤字脱字があったとしても、もう一度会社に戻って書き直してくれとは言わない。全く効率的ではないからだ。

それよりも、原画の指示と違うやり直しはルールに反するし、動画の人間達にさらなる苦境を与える。
最初のうちは穏やかに従っていたが、度重なる理不尽なリテークに雑草達がその仕事に嫌気をさすようになっとしまった。
再三その会社には、こちらの制作の人間を通して改善して欲しいと伝えていたが、一向に改善されない。
そこで、その会社の制作進行が来た時に、事情を話した。最初は怪訝そうな態度で聞いていた進行さんだったが、最後は「わかりました。不愉快な対応で申し訳ありません、必ずプロデューサーには事情を報告しておきます」と、わかってもらえた。

数日してから担当プロデューサー氏から電話があった。
電話に出たのは南だった。
ところが、要はお前らは、言われた通りにやればいいんだの一点張り。
アニメ界の仁義に反する行為にも、リテークはリテークだと、リテークに変わりはない事を力説。

まるで外注ごときが生意気ぬかすなの態度。
そして「ウチの動画チェックは作品を通して教育してやってるんだ!」の捨てゼリフ。
俺は驚いた。それが有名な会社のこともあろうにプロデューサーなのだ。
プロデューサー氏の「教育してやってるんだ」のセリフに憤慨して、もう一度南に抗議の電話をかけさせた。

南とのやりとりは最悪のものだった。激高したプロデューサー氏はあろう事か、南に対して民族的差別発言