アニメ界は狭き門




あるアニメ下請け会社のS君と久々に電話で話した。
S君は葦プロ時代の後輩で、現在はその下請け会社の原画のチーフとして頑張っているようだった。

内容は殆どが俺の愚痴…一般常識から外れた自己中心的で心閉ざしたアニメーターの話。
俺がこの会社に来てからゾンビは一掃したのだが、アニメ界の宿命なのか、ゾンビは新たに生まれてくる。

駄目な奴に限って向上心が無い。プライドだけ高く、人に聞く事さえ嫌がり、自分の頭の中だけで考えて絵を描く…
鏡を見たり自分でポーズをとって絵を描く事もしないし、参考書さえ見ない。見るのはキャラ表だけ…

向上心も感じないし、好奇心すら無い。
いったいコイツは何の為にアニメを続けてるんだろうと思ってしまう。

俺「アニメーターとして駄目と言うより、人間としても駄目なんだ、脳みそさえ無い」

「へえ~っ、そんな奴が居るんですか…ウチはそこまでの馬鹿はさすがに居ませんね、変なのは入れませんから」とS君。

S君の話によると、S君の会社では面接が厳しいとのこと。まず実技テスト。(雑草プロでは無い)それから繊細な面接。
面接の最中に面接官が部屋から出て行き、応募者を部屋に一人っきりにさせる。
そして、その様子を部屋のモニターで観察するそうだ。
そして外部から電話をかける。もし、その応募者が電話に出なければ即アウト!
電話に出た場合でも、その対応が悪かったらアウト!

S君「会社の方針で、電話の対応も満足に出来ない人間は、どうせ仕事も出来るわけがない、という判断なんです。」

俺「かなり厳しいね」

S君「いい加減な人間に一生懸命教えても労力が無駄になるし、すぐ辞められたりしたら、会社は何の徳もありませんからねぇ」

俺「応募してくる人間は大体どれぐらいいるんだい?」

S君「そうですねぇ、毎年三人枠に100人以上はいますかねぇ…」

雑草プロとは大違い…ここは誰でも受け入れる…たとえ頭が禿げていても…だから時々トンデモナイ人間が入って来る…

まず実技テストが無いのがおかしいだろ?
テキトーで下手くそな絵持って来て「やる気はあります!」と言えば即合格。

呆れるのは入社翌日に電話がかかってきて「妊娠が判明したので、今日でやめます」とか、一日来ただけで、飽きて居なくなる奴などなど…

ある時、女の子が「私、航空自衛隊のパイロットになりたいので辞めさせて下さい」と言ってきた。

俺「そうか、辞めるのは自由だからいいけど、パイロットになるんじゃ、君は英語が堪能なんだな」
女の子「英語???…なんですか、それは???…」

俺「だって英語が話せなきゃ、パイロットになれないだろ」

女の子「ええっ!! そっ。そっ、そんな話聞いていません!!」うろたえて目が飛び出した。
女の子「じゃ、じゃあ、パイロットは諦めて、私漫画家になります。」
呆れてしまう…

現ジーベックの羽原君の若い頃は好奇心旺盛だった。

ことアニメに関してはアグレッシブで、いろんな作画監督の所へ教えを受けに行っていた。
それを会社で話すものだから、「社内にも作画監督が居るんだから、少しはメンツも考えて」とたしなめた時があった。

いい意味でそれぐらい情熱がないと。

この雑草プロの一部のゾンビにそこまでは求めない。
せめてまともな挨拶と、ごめんなさいは言えるようにしよう。