悲しい色やね



この雑草プロにハム(仮名)という男がいる。

アニメ歴三年。周りからは真面目で通っていた。
出勤時に街にゴミが落ちていれば、勧んで拾い、スタジオの前に来ると必ず一礼をして入ってくる。
仕事が終われば、その仕事に対して深々と一礼してカット袋に入れるといった具合に、馬鹿が付くほど真面目だった。
食生活も質素で、早朝に自分のアパートでご飯を炊いて、昼も夜もおかず無しの塩むすびだけ。
「僕はアパート代も含めて、ひと月五万円あれば生活出来ます」と言って、実際にそうしてきた男だ。

そのハムが反則を犯した。

それも今回が二度目の反則。
一度目の反則は仲間が作業した仕事を巧みに操作して、自分の懐に入れていたのが発覚。 反則というより犯罪だ。
たまたま俺がその巧妙な手口に気がついたものの、それまで何度も繰り返しやっていたのだと思う。
今回の再犯は内容が少し違うが、結果は自分が得になるように「ズル」した事が明るみに。
一度目の犯罪の時に俺は烈火のごとく怒った。
貧乏生活だったとしてもそれは理由にならない。貧乏はここに居る人間みな同じ。
だから俺は言ってやった「仲間の金をくすねられる人間は、どんな大きな犯罪にも手を染められるって事なんだ!」
ハムは反省の言葉を口に出し、みんなに詫びを入れて普段通りの職場に戻ったように見えた。

だが3ヶ月もしないうちに再びハムの悪行が発覚した。
そして今回は仲間内から、次から次へとハムの悪行が吹き出した。
ハムの二面性に苦しみ続けてきた後輩達の不満が爆発した。
ハムは上の人間には徹底的に弱く、後輩達には徹底的に強い性格だとわかっていたから、何度も注意をしていた。ハムはその都度反省の言葉と態度は見せるものの、その性格を変えることはできなかった。
そして今回ばかりは、後輩達の涙の証言に驚いてしまった。
ハムは俺の目を盗んでは巧妙な手口で、自分の後輩達に「ズル」をして苦しめ続けていたのだった。
俺はもはや怒りよりも哀れだと思った。
そのハムはもうじきここを辞めて転職する。
ここでの三年間を無駄にして、苦い思い出と共に去って行く。
俺がハムにかけてやる言葉は無い…俺の心の中には、もうハムは存在しない…

「さよならハム」

君の色は「悲しい色やね」

上田正樹のヒット曲「悲しい色やね」は、いみじくもハムを教えてた南のお父さんが作詞した。まさに悲しい色やね…