よけいなお世話







ここ雑草プロの男達は本当に体力が無い。

昼休みにちょっとバドミントンをやっただけで汗ダラダラ…

翌日は足腰にきて階段が辛いです、なんて言う若者もいる。大体アニメーターって運動が苦手のようだ。

このオジさんは元気だ! 中の男性陣に負けそうなものは見当たらない。今でも腹筋100回出来るし、南も驚くほど。

雑草プロでは時々運動不足解消の為、日曜日にみんなでハイキングをする。

東京近郊の山登り、サイクリング、お花見などなど、希望者だけ募って楽しんでる。なるべく金がかからないように「アニメーター予算」で楽しんでいる。

昔のアニメーターはもっと元気があった。新人の頃は東映の撮影所のグランドを借りて野球をした事もあったし、葦プロにも野球チームがあって、時々近くの上井草球場で野球の試合もした。

最近は中の青年に聞いてみると、サッカー青年が多い。でも実際にやらせてみるとドヘタ…評論だけは達者だが、実技はまるでスポーツを冒涜してるような動き…

この雑草プロでは、女性陣の方が体力と運動神経は優れてる。

中でも異才を放ってるのが、アニメ歴二年半の土条。

バッターボックスに入れば、上半身を上下に揺らしながら、まるで仁王のような顔つきでピッチャーを威嚇。

リレーで抜かれそうになれば、大声で吠えまくって相手をビビらせる。

自分でボケて、突っ込みまで入れるといった具合に、サービス精神旺盛な女の子。自分をあえて落として明るく振る舞える女の子なのだ。

アンタッチャブルのザキヤマや、ハリセンボンの春菜みたいな楽しい奴。

そんな明るい性格を買われて、この雑草プロでは電話番をしている。

島根県から単身上京して来て、一人前のアニメーター目指して頑張ってる。

明るいけど涙もろい…自分のミスや俺の説教で何度か涙を見せた。

元レンタカー会社の受付嬢だったから、アニメーターには気薄な一般常識も備えてる。そして素直な感受性を持っている。(誉め過ぎか?)

土条は正直だから俺は腹を割って話せる。素直だから本気で怒れる。

俺のアニメ界の定義、アニメ界の常識は世間の非常識、アニメ界は伏魔殿、飲み込まれたらゾンビになる、常識を備えた土条にはそうなって欲しくないから、俺の小言は厳しい。時には怒鳴りつけることもある。

それでも土条はヘソを曲げることもなく素直に受け止め、俺を信頼してくれてる。

ただ、土条は一般常識があるがゆえに俺の心配のタネでもある。

それは今まで40年間アニメーターという人種を見てきたが、一般常識がある普通の女の子はあまり大成しない。

どちらかと言うと、普通じゃない女の子ほど大成してる。

自分の時間のほとんどをアニメに捧げ、世の中の動きも遮断して、オシャレも恋愛も趣味さえも捨てて、「描くこと」だけが楽しみだという女の子ほどアニメ界では残る。

その点が土条とは異なる。土条には恋愛中の彼氏もいるし、アニメ以外の欲望もある。そして土条はいい意味で、他人を遮断して仕事する強さは無い。あまりにも優し過ぎる。

そう考えると、土条が普通の優しい人間でいいのか、普通じゃないけどアニメバカの土条がいいのか考えてしまう…

極論を言えば、指導者としてアニメバカにしてしまった方が上達は早いだろう。そうすると失うものも大きい。それは土条自身が決める問題だが、極論を言えば、この報われないアニメ界に引きずり込んでギャンブルさせていいものかとも思ってしまう。

いやいや、できればどちらも兼ね備えた人間になってもらいたい。

そんな土条は俺には何でも話してくれる。聞きたくもない彼とのノロケ話まで…時にはその彼とのエッチ話までしそうになるから、俺がストップをかけるほど。

土条、勘違いするなよ、お前の事は気にはかけてるけど、八つ裂きにされても愛してなんかはいないからな!

そう言っても「またまた、柳田さん無理しちゃってぇ~」って言葉が返ってきそうだ…

俺のよけいなお世話だよな。