ほろ苦いスイカ

                                                                                                           2015/08/12





夏だ! 暑い…特に今年は猛暑だ。
毎日自転車で通勤してる身にとっては辛い。会社に到着すると、すでにシャツはびしょびしょ…リュックをしょって来るから、背中までぐっしょり…
そのため会社にはTシャツのストックが何枚か置いてある。

いつものように汗ダクで会社に到着して、冷蔵庫の中から飲み物を取ろうとすると、何やらビニール袋に入った大きな物体がある。
そこへ南が近付いて来た。

南「それ、お父さんが作ったスイカ送ってきたの。」

俺「なにぃ???…」

去年も巨匠の作ったスイカは頂いた…
巷に流通している物ではない。南のお父さんが品種改良した物であろう貴重なスイカだった。味は健康志向で甘味を抑え、(無いに等しい)歯みごたえがある素晴らしい新種のスイカだった…まるでズッキーニを連想させるかのような食感だった。

恐る恐る巨匠の作ったスイカを冷蔵庫から取り出すと、そのスイカは去年より一回り大きい。店で買えば1280円はしそうだ。

いやいや金額の問題じゃない。数々のヒット曲を飛ばした巨匠のスイカなのだ。
今年もみんな去年のように、感動のあまり涙を堪え、顔を歪めながら、無言で食べる事になるのだろうか?…

南「今年は大丈夫かなぁ…」

俺「なっ、なっ、何を失礼なこと言ってるんだ。さぁ、きっ、切るぞ。」震える手をなだめながら刃を入れた。

ザクッ!…

去年より刃先が順調に入る。おかしいな…
続けて刃先を何度も入れ、スイカを真っ二つにした。

おおっ!、こっ、これは?!…あっ、赤い!
去年は白いスジが散りばめられたピンク色だった。だが今年のスイカは赤い!



意外な展開に驚きながらも、人数分を小さく切り分けて全員に配った。

俺「よおし、さあ食っていいぞ。」

あっ、甘い! まぎれもないスイカだ!
「おお~っ!」去年のスイカの味を知ってる連中から、どよめきの声が巻き起こった。スイカの皮は厚いものの、味はとても甘い。

スイカと言えば、数年前に近所の公園にスイカが実っていた事があった。
最初は小さなスイカだったが、「早く大きくなれよぉ…」と毎日願いながら観察したもんだった。


(南の手の上に乗る公園の赤ちゃんスイカ)

公園のスイカは成長の頃合いを見計らって、南と二人で「拾ってきた。」(ものは言いようだが…)
そして雑草プロのみんなで食べた。そんな思い出がある。

そんな物よりも、今年の巨匠が作ったスイカは、はるかに甘い。みんな笑顔だ。

南「良かったあ~。」南の顔がほころんでいる。

だが、来年の今頃、南はもうここには居ない…
そう思うと甘いスイカも、どことなくほろ苦い味がした…