責任は公平に
2015/10/08ある大手のアニメ会社の人間がこぼしていた。
最近その会社の方針で、経費節減のため、制作があらゆる努力をして節約してるとのこと。カット袋はボロボロになるまで使い、時には他社のカット袋まで使って節約してるらしい。(セコい…)
ところが、制作が涙ぐましい努力をしてるのにも関わらず、ある演出家が毎回大量にタイムシートを無駄に使うらしい。
消しゴムで消して書き直せばいいものを、全部ホチキスでとめてわざわざ新しいシートを使ってるらしい。その数は膨大で、ほとんど全カットのシートを破棄して新しいシートを使うとのこと。みんながせっかくカット袋を節約しても、その演出家一人のせいで節約がパー…
その上その演出家は「仁義に反したルール違反」をするらしい。「作画監督が付けたシート」まで無断でバチバチホチキスでとめて、勝手にシートを全部書き直す。それも全カットに近い…
昔だったら考えられない。そういった行為は仁義に反するのだ。シートの動きのタイミングを直すなら、ひとことあるべきだろう。こうこう、こういった理由でタイミングを直しましたと筋は通すべきなのだ。昔はそれが常識だったし礼儀だった。おそらくこの作品を総括している監督も、そこまでは知らないだろう。
ところが、この演出家は自分も原画を描くものだから、天狗になってるらしい。本当に出来る人間は権威をひけらかさない。
そしてシートを直すわりにはミスも多く、色が付いた段階でのリテークも多いとのこと。
その演出家の単純ミスで、原画から描き直す場合も多いらしのだ。服が違う、バッグが違ってる、対比が違う等々…
そうなると多額の損失になる。原画を描き直し、動画、仕上げ、撮影、編集まで含めるとかなりの金額が無駄になる。
ところが、演出家という分野は一切おとがめがないのだ。
これがアニメーターだったら大変だ。自己責任を問われ「やり直し」になるし、金にもならない。
演出家がどんなにミスを犯し、多額の損失を出したとしても、責任や損失は問われない。制作が新たに金を出して各分野に再び発注する。
演出家という分野はそういった面でも優遇されている。
アニメ会社が本当に経費節減するなら、セコいカット袋の節約なんかよりも、こういった演出家の無駄なチェック体制をしっかりした方がよっぽど経費節減になる。単純ミスならばそれなりの責任はある。しっかりチェックしないから、多額の損失を生むのだ。
制作「演出さん、あなたの単純ミスで、今回は30万円の無駄な支出が出ました。ですから今回は、せめて損金の三割は払って下さい。」なんて事になれば、もっと真剣にチェックするだろうし、無駄な損失も出ない。おそらく、こういったシステムを作れば、かなりの金額が浮くだろう。この世界、他人には厳しく自分には甘い自分勝手な演出家も多い。他人に厳しくするならば、自らの襟も正して責任を負うべきである。
ところが、アニメ界は制作が弱い。だいたいがプロデューサーですら若手が多く、演出家よりも年齢が低くキャリアも無いという場合が多い。そうなると何も言えない…
制作が演出に作品の権限を「丸投げ」して、やりたい放題を許し、それを毅然と正す「猛者」もいない…無駄な損失を垂れ流しても見て見ぬふり…
そういった理由で、制作の人間が弱いからチェック体制自体そのものが作れない。
大手の某アニメ会社の人間から、そんな話を聞かされたが、残念ながらそれは昔からあること。長年この仕事を経験してると、そういった無駄な損失は数限りなくある。以前この会社でもある作品の演出の原画チェックが遅れに送れ、1ヶ月間待たされ続けたという出来事もあった。それでも下請けは何の保証もされないのだ。それでも制作は演出に何も出来ない。
上記のように、もしそんなチェック体制が出来れば、シリーズアニメならひと月に100万円ぐらいの金は節約出来るだろう。
それを改善するならば、もはやプロデューサーレベルでは改善出来ない。もっと上のレベルの人間のチェック体制でないと無理なのだ。
プロデューサーにしても脚本家や演出家とは、なあなあで交際費はそんな人間との酒代で消える。決して恵まれないアニメーターにはビタ一文使わない。
金にもならない大変な仕事は下請けに回し、自分の息のかかった会社には決して面倒な仕事は出さない。
制作の上層部がそうだから、下の制作進行も行儀が悪い。
あまりのひどさに苦情を言えば、制作進行ですら、「そういった仕事しかない。」と開き直る。親会社特有の殿様商売。そんな心ない発言で、下請けや外注に対して火に油を注ぐ言動もままある。(最近もあった)
駄目な制作進行は、進行という仕事がよくわかってないから、単なる「パシりの仕事」しかできないのだ。
普通だったら、あまりにも大変な仕事を出す場合、金額を倍にするとか、プラスアルファーするのが、まともなアニメ会社の常識だ。現にそういった予算は組んであるはずなのだ。
ところが、そういった予算は前記のように、交際費の名目で酒代で消えてしまう。俺がフリーの頃はそういった恩恵も受けたが、当時はあまり深く考えなかった。今こうして底辺の雑草達を教えていると、あまりの扱いに心苦しくなる…
百歩譲って、金を出したくないのであればそれはそれでいい。ただし金を出さないなら、下請けに、もっと気持ち良く仕事をさせるのも制作の仕事のひとつ。進行まで上に習いじゃ困るのだ。進行本人が一番困るのだ。そうした進行教育をおざなりにすると、いつかはその報いは必ずやってくる。嫌な進行の仕事は、どんなに困ってもアニメーターは協力しない。
さて、もし俺が制作進行だったらどうするか?
俺「大変申し訳ありません。今回の話は込み入ったストーリーでして、大変なカットが多いんです。私としても心が痛みましたので、デスクやプロデューサーに進言しましたところ、どうしても予算の都合上キツいとの事でしたので、大変申し訳ありませんが今回はどうかご了承下さい。」と、嘘でもそう伝える。無能の進行は、そういった嘘の方便すら使えないのだ。
いや、親会社のプライドで、下出に出るのが嫌なのかも。
そういった言葉があれば、そうかこの進行さんはそこまで上司に進言してくれたのかと、進行本人は男が上がるし、下請けも気分は害さない。そしていつかはこの進行さんの頼みなら徹夜してでも、と思うものなのだ。
そういった人間心理のわからない幼稚な進行が多いから、フォローするどころか反対に火に油を注ぐ結果になる。
こちらはあくまでも良くしようと意見でも言おうものなら、カッとなって食い下がってくる進行すらいる。
アニメ界の一部はそんな子供の集まりの一面もあるのだ。
話は最初に戻るが、多くのアニメ会社の社長さん。
経費節減するなら、みみっちい事じゃなく「責任は公平」なシステムをきちんと作れば、もっと大きな金額が節約出来るはず。もっと足元を見つめ直した方がいいのでは?
それよりも一番は足元の人間教育かもしれない。
自分に都合が良くて、いいなりになる人間を責任ある立場に置くから駄目なのだ。そういった「いいなりの人間」は、外部の強い人間のいいなりにもなりうるのだ。
ホラ、気をつけないと、近くで金をチョロまかしてる部下もいるんだから…