ルパンにガッカリ・・・
2015/10/29自宅に帰った深夜にテレビをつけたら「ルパン三世」をやっていた。
そのルパンは、あえて昔の「セル画時代」の作風に挑んだシリーズだった。
セル画時代のアニメは、わりと線が太く強弱もあった。今の線の細いアニメとは違って線に独特の味があった。今回はそれを意識した作画手法だった。
俺は今回のこのシリーズの原画や動画の現物を、ある会社で見る機会があった。
その現物の原画は、確かにセル画時代の独特の線のわびさびがあり、丁寧な味わいのある原画だった。
原画が綺麗な強弱のあるトレスラインで出来上がっていて、セル画時代にあった流れるような微妙な線の途切れまで、わざわざ色トレスで繋げて表現してあった。
そしてその原画をそのまま動画として生かして使用するようになっていた。つまり、動画は原画清書をせず、中割りだけをするやり方だった。そうでもしないと、セル画時代の強弱のある習字のようなトレスラインは、今の動画マンには引けないのだ。
中には引ける人間もいるだろうが、大多数の動画マンは引けない。細く均一の線で育った動画マンには、習字のような味のあるラインはなかなか引けないのだ。
その現物の原画を見た時、懐かしくもあり、作品のコンセプトに感心し、期待もしていた。そう言えば俺も昔ルパンの原画を描いた時もあったのだ。
ところが、オンエアを見た限り、セル画特有の独特の味は消え失せていた。ただ線が太いだけ…
セル画時代のアニメを経験してきた側から見ると、セルアニメの良さをかえって殺してしまってたような印象だった。
セル画の習字を彷彿させるような、味のある微妙なカスレ具合や線の強弱は消え失せ、まるで濃い「マジック」で線を引いたかのような太いだけで味気ない線になっていた。
やはりセルアニメの独特の強弱や味のあるカスレ、勢いある線はデジタルで処理すると別物になってしまう…
こうしてせっかく作画で手間暇かけても、これでは作画も可哀想だし、残念な思いがした。やはりセル画の味は無理なのかとも感じた。 今の作品はトレスの幅広い技術的要素を省いて、トレス線そのものに遊びが無くなっている。絵の細かさと複雑な影でごまかしている面もある。均一で細い線は少し練習すれば誰でも引けるのだ。(ここの新人以外は…)
俺が新人の頃は、線の強弱、筆圧の濃淡、線の勢い、柔らかいラインなどなど、厳しく指導されたもんだった。綺麗に引けても、線が細かったり物質によってのトレス線の描き分けがされてなければ、「トレス線に質感が無い」と、リテークをもらったものだった。
今のデジタルアニメは線が固くても、形が崩れてない限り通用してしまう。太く強弱や濃淡がある線は「悪い線」だとアニメ学校で教えてるぐらいだ。時代が変われば見方も価値観も変わる。
セル画アニメ時代の線が劇画ラインならば、今のアニメはイラストラインなのだ。
作品によっては細い線の方が映える作品もあるが、あまりにもそれだけが主流になると、「あしたのジョー」や「巨人の星」、「タイガーマスク」などの迫力のある劇画風のアニメの楽しくさは味わえない。流れるような筆タッチが懐かしい。
今のデジタルアニメはいい面もあるが、アナログのセル画時代も捨てたもんじゃない。デジタルでは決して味わえない良い面もあった。だからこそ今回のルパンは、そういったセル画時代のトレス線の幅広さを狙ったのだろうが、残念ながら効果は無くカラ回りしてしまった。
昔はトレス線一本でさえ、今よりは鍛えられた。そんな思い出と共に、雑草プロの人間には「君らにセル画時代のアニメを経験させたかった。」と言っている。
昔のアニメは作画監督が各話違っていたから、作画監督の力量によってクオリティーが違っていた。全てが良かったわけじゃないが、上手い人の話数だと今でも充分楽しめる。
そんな劇画風の作品を何本か選んで、雑草プロの人間に見せた。みんな劇画風のトレス線が新鮮だったようで、細い線イコール完全神話の意識は消え失せたようで、セル画時代の面白さをあらためて喜んで見ていた。
ちなみに、雑草プロはテレビも無いケチ会社。だから「テレビデオ」を自宅から運んで、VHSテープでの鑑賞だった。(重かった…)
DVDだって俺が自宅から持ち込んだ物。
スタジオの天井の壁紙は剥がれかけ、床はベコベコで歩けない場所もある。そのくせ最近は一台三十万円もする防犯カメラを「四台」も会社の回りに取り付けた。この会社は一体どうなってるんだ?
会社が何も用意しないから、俺の私物が至る所にある。参考資料、食器、はたまたオモチャまである(大人のじゃないぞ)
最近は仕事のあがりが悪いから、先週も全員日曜出勤させての作業。疲れた時は100円ショップで買ったゴザが俺の臨時ベッド。問題ばかりだから、ますます俺の闘争心に火をつける。気力と精神だけは一番若い。さあまた仕事だ!