ひがんばな
2015/10/03毎年雑草プロ恒例の高麗ハイキングに行ってきた。
今回は少人数だったので、俺の妻や雑草プロのOBも誘った。そして新人の参加は一人。
今回ハイキングに参加した新人は都内の実家から通う部矢(ヘヤ)(仮名)。
20代前半の女の子で、口数も少なくおっとりとした性格だ。
部矢はアニメを始めてまだ半年だが、とにかく作業が遅い…生き物に例えたら、まるでカタツムリだ…
部矢の最初の頃は、あまりの駄目さに頭をかかえたが、今もあまり変わらない。
俺「なぁ、アニメは大変だろ? 今はあまり稼げてないし、親からそんな割に合わない仕事は辞めなさいと言われてないかい?」
部矢「いいえ、全然何も言われないです。」
俺「でも家に帰る時間は遅いだろうし、親だって心配してるだろう? 」
部矢「いいえ、私が帰る頃は、もう両親は寝てますし、今まで何も言われた事はないです。」
俺が不思議に思ったのは、部矢は毎日会社に来ると、昼食も夕食も外食なのだ。それも食べたい物を食べている。俺達貧乏人と違って、金額を気にしてる様子もない。
定期代や食費その他、携帯代や雑費を含めるとかなりの額になる。
そのへん探りを入れると、全部親から出してもらっているらしい。
それにしても、娘にあれこれ一切干渉せず、お金だけ出してくれる…なんて物わかりのいい両親なのだろうと驚いてしまう。そして部矢は今までアルバイトをした事も無いらしい…お金持ちか?
俺「部矢は買い物する時に、値札見ないで買ってるだろ? 」
部矢「はい…」
…やっぱり…ひょっとしたらお嬢様?…
そんな恵まれた環境でアニメをしているから、部矢はのんびり屋なのかもしれない。
おっとりとした性格で、冗談を言っても通じない。キョトンとした表情をするから、いつもこっちがヤケドをする。そのキョトンとした顔は、女優の「片桐はいり」を美人にしたような顔。(例えが悪いか(^_^;))
そんな部矢はアニメーターとしては、まだまだまだまだ発展途上の人間。一番の問題は危機感が無いこと。新人全員に言える事だが、言われた事を実行しない。部矢にしても口先だけのその場しのぎ…部矢にとってはアニメはどうせ「道楽」程度だろう…最近その意識の低さがわかった。
それでも部矢のように両親がアニメの仕事を理解してくれればいいが、全く理解してくれない親もいる。雑草プロの土条などは、未だ田舎の両親が大反対。
帰省する度に「もっとまともな職業につきなさい。」と言われるらしい。そのうえ土条がアニメーターである事を親戚にもひた隠しているとのこと。
そんな状況だから、親戚の人達は土条の職業には決して振れてはいけないものだと思っているらしい。
土条が正月に帰省して親戚と会う度にそんな気まずい空気が流れて、会話にも困るらしい。
世間は「日本のアニメは文化」などと、もてはやすが田舎の人間にとって未だアニメは「まともな職業」じゃないのだ。
特に古い田舎の人間にとっては、物質を生産しない仕事はまともな職業じゃないと考える人間はまだまだ多い。
それとは逆に理解あっても、仕送りに頼り過ぎて駄目になるアニメーターも多い。
それよりも最近は男が「女性化」している傾向がある。外見は男だが、内面は小心者でまるで女の子。問題が発生しても、全てスルーして時の経過だけを待っている。「おしとやか」で何を考えてるかわからない。
ここに来るアニメ志望者は、まず仕事以前に挨拶から、先輩後輩の人間関係、そして最低限のモラルから教えないとわからない。それでもわからない人間もいる。
また中には、とうに二十歳を過ぎてるのに、着る物、履き物、全て母親が買ってきた物を着用している男もいる。そして好きなタイプの女性は「頼れる人」と、恥ずかしげもなく言う。
一度用事があって携帯に電話をしたら、俺だと気付かず、すかさず携帯を母親に渡して、母親が出てきた。
母親「アンタ誰?」
過保護に甘やかされ過ぎて、親離れ出来ないから、全て母親任せ。ものを言うのにも苦労する。良く言えば純粋、悪く言えば生きてること全てが「おんぶにだっこ」…それに本人は全く気付いてない。
そういった人間に対しては、まず幼稚園の女の子だと思って対応しなければならない。怒ったらスネるだけ。
事の善悪もまだよくわからず「誠意や仁義」が通じない。つまり本人にとってアニメは「お絵描き」なのだ。積み木やキャラ遊びの延長線上なのだ。
そう思うと土条の母親の言う「まともな」と言う言葉が、あながち間違ってないような気もする…
しっかりしろよアニメーター!(俺もだ(^^ゞ)
今年の新人はアニメーターとしてのレベルは低く、みんなドングリの背比べ…
同じ下手なら、向上心があって真面目で気持ちのいい人間を応援してやろうと思うのが人情。
全てが機械的で、そういった人間心理を全くわかってない輩が多い。
さて、毎年恒例の曼珠沙華ハイキングに話を戻すと、現地の駅に着いたら雨…
これからどうしようと不安にかられながら歩いて、目的地に到着すると雨は止んだ。
曼珠沙華の見頃は少し過ぎていたようで、枯れたのもあり完全な満開時期ではなかった。
川辺で昼食を取り、向かった先は標高400メートル弱の山の上にある神社。かなりの急勾配でみんな無言で登った。
ここからの景色は俺の一番のお気に入りで「巾着田」と言われる曼珠沙華の景色が一望出来る。
その後は山の尾根づたいに歩いて、五常の滝という滝に向かった。
病弱の俺の妻と、身重の南は山登りには参加せず、別ルートで滝に向かってそこで合流した。
この五常の滝には沢蟹がいるので、毎年蟹を捕まえて遊んでいる。
滝に着いた途端、それまで疲れてテンションが落ちていた雑草プロの萩原のテンションが上がった。すぐさまゴム草履に履き替えて水辺に入って蟹探し。ズボンが濡れてるのも忘れ、水面に顔を密着させて必死で蟹探し。小刻みに左右に顔を動かして、まるで獲物を狙うカッパだ。
他の人間もそれに加わって、一番成果をあげたのは10匹以上の蟹を捕まえた萩原だった。
俺はそれには参加せず、それを遠くから眺めていたが、萩原の必死な形相で蟹を探す姿はマヌケで、楽しいコントを見ているようだった。
アニメーターは、この萩原のようにどこか純粋だ。その純粋さが、どこかズレている部分もある。
帰りの電車に乗ってみんなと別れた後、萩原が一緒に同行したOBの川口に食事に誘われたらしい。
川口「良かったら御飯でも一緒にどうですか?」
萩原「いえ、大丈夫です。家に御飯がありますから…」と、断ったとのこと…
バカ!! 意味が違う…
OBの川口が食事に誘ったのは、「お腹すいてるだろう?」の意味じゃない。
翌日そのことを知った土条から萩原が餌食になった。「なにぃ???、せっかく誘ってくださったのに!」
悪気は無いのだ。この萩原、純粋が故こういったヘマはしょっちゅう。全て言葉通りに解釈してしまう…
純粋だからアニメという仕事が続けられてるのかもしれない。その純粋さをいい意味で生かして頑張ってもらいたい。
今回ハイキングに参加した萩原は、変わり者だけど、変な色に染まってない純粋な奴。駄目な人間が多いから、見てると少しホッとする。
今年の曼珠沙華は見頃を逃し、少し枯れ気味だった。まるでこの雑草プロのように、枯れかけていた。
来年を期待しよう。曼珠沙華も人材も。ああ、悲願花…
辺り一面が500万本の曼珠沙華 萩原の捕獲した沢蟹