キャラデザインの依頼

 

 葦プロ在籍中は、本当に力以上の仕事を回してもらった。社長に呼ばれて、新しい企画アニメのキャラクターデザインを頼まれた事もあった。数日後、社長に連れられて、早稲田にあるダイナミックプロを訪ねた。
 応接間に通され、現れたのはダイナミックプロの社長と、石川賢さんが現れた。葦プロの社長とは前もって話がついていたらしく、話はスムーズに進んでいった。
 すると突然石川賢さんが、クロッキー用紙に戦艦らしい絵を描き始めた。
「こんな感じですかねえ・・・、こんな感じの戦艦で、この戦艦がロボットに変形するようにお願いします」
 そう言って、一枚のラフデッサンを渡された。
「うっ・・・」
 それは雑な絵で、お世辞にも丁寧な絵とは思えなかった。
「これでロボットに変形させるのか・・・」
 心の中で驚きと同時に不安がよぎった。引き受けた手前、もう後戻りはできないし、俺程度のアニメーターにチャンスを与えてくれた嬉しさと、冒険心が強かった俺は、腹を決めた。

 翌日から俺はその仕事に取りかかった。思考錯誤を繰り返しながら、ヘタクソなりに二週間ほどかかって、なんとかそのラフデッサンの戦艦をロボットに変形するように、キャラクターを造り上げた。
 結局その新しい企画物は日の目を見ることもなくボツになったのだが、もっと驚いたのがギャラだった。二週間の間その仕事だけに没頭して精も魂も尽き果てたのに、貰ったギャラは二万五千円だった。
 早い話、有名なキャラデザイナーを使うと高くつくので、俺が選ばれたのだと気がついたのは、後の祭りだった。

 そんな事があってから、再び社長から新しい企画のキャラクターデザインを頼まれた。「レインボーマン」という、昔特撮で人気のあった作品をアニメでやろうという企画だった。
 でも社長の腹の中は分かっていたから、シリーズの原画を描きながら片手間でやるつもりで引き受けた。
 ところが、そんな適当な気持ちで引き受けたからか、全く作業しない日が続いて、約束の期日の前日になってしまった。
 困った俺は、後輩の榎本君、斉藤君を呼んで、明日までに適当にデザインして描いてくれと頼んだ。二人とも興味津々。喜んで引き受けてくれた。
 翌日、出来上がったものを見てみたが、可もなく不可もなく、全くインパクトの無いものだったが、そのままそれを持って社長室に行った。
 そんなやっつけ仕事だったから、その企画はボツになり、いつの間にか忘れてしまった。もちろんギャラは激安だったため、適当にやっておいて良かったと、心の中では喜んだ。

 それから一年ぐらいした頃、日本アニメーションで「レインボーマン」のシリーズアニメが他の会社の制作で始まった。どういった流れでそうなったのか、雑草アニメーターには知る由も無い。