確信犯達



   事件当時の加害者達は、完全に変だった…

 まさに何かに取り憑かれていた。

 そして完全な確信犯だった。

 事件が起こる前から、俺は何人かから相談を受けていた。「Mにはキツネが憑いている」
 「柳田さんの実家は神社なのだから、お祓いできませんか?」

 まともに聞けないMさんの愚痴や悪口の相談…

 そして事件を起こす前に彼等は奇妙な行動までしていた。

 加害者の中で一番の年少者のK少年に対して、狂言自殺未遂までさせている。

 K少年を熱海の海で、服を着たまま入水自殺の芝居をしろと命じた…

 そうすれば誰かが助けに来て、警察に保護される。

 警察に保護されたら「僕はMという女性に散々嫌がらせを受けたと言うんだ、そして死のうと思って熱海まで来ましたと言え、警察にそういう状況証拠を作っておけば、俺達が事を起こしても情状酌量がある」…

 そんなリーダー格の男に命じられたK少年は、それを実行した。

 だが、それは徒労に終わった。

 そのへんの事情をよく知るTの証言「柳田さん、あの時はKが可哀想でしたよ…」とT。
 続けてT「Kは実際熱海まで行って決行したんです。ところが、うまくいかなくてKからリーダーに電話がかかってきたんです。僕はそのやりとりを側で聞いてたんです」

 K少年「朝から何度も海に入って、自殺未遂してるんですけど、誰も助けに来てくれないんです…」
 リーダー「何でだ!」K少年「みんな遠巻きに見ているだけで、誰も来てくれないんですぅ…」泣きそうな声。
 リーダー「あっそう、じゃあ何回もやってみるんだな!」吐き捨てるような電話切る。

 そんなやりとりが何度かあったそうだが、リーダー格の男は冷たく見放した。証言者のTは悲しそうな表情で話を続けた。

「Kは日が暮れるまで海に入り続けたんですけど、結局誰も助けには来なかったようでした」
 Tの証言によると、K少年はずぶ濡れの服を乾かしたものの、完全には乾かず生乾きのまま、最終の新幹線で戻ってきたとのことだった。
 そう証言したTだったが、その後に丑三つ時に頻繁にかかる無言電話や、何者かに自宅アパートの鍵穴を瞬間接着剤で固められたりして、警察が駆けつけた事もあった。
 そのあまりの不気味さにTは引っ越していった。

 この事件に関しては、まだまだあるが、ある程度オブラートに包んで書いている。

 完璧な真実は読み物としてそぐわない。