職業として



 その後俺はプライドを捨て、動画に徹して、毎日百枚の動画を描き続けた。
 主に東京ムービーの仕事だった。合作の「クマのプーさん」「ダックテールズ」「ルパン三世」「レスラー軍団」「おちゃめなふたご」「フランダースの犬」「アンパンマン」等々・・・。もうアニメは職業だと割り切って、毎日、一日百枚の動画を描き続けた。毎日机にしがみついて、外出はほとんどせず、仕事と寝るだけの生活だった。
 仕事のやりとりは毎日制作進行が届けてくれた。各進行の訪れる時間はまちまちで、原画の進行具合でも違うし、進行の動き方ひとつでも違ってくる。
 昼過ぎに来る人、夕方に来る人、深夜、明け方などなど様々だった。深夜を過ぎると、お互いの仕事のやりとりは玄関脇の隠れたスペースに取り決めてあった。
 そして深井さんという進行さんは、深夜に来るタイプだった。そんなわけで、深井さんとは電話で何度か話すぐらいで、実際にはほとんど会うこともなく、時は過ぎていった。
 毎回深井さんの担当する話数は進行状況がスムーズに流れて、とても仕事がやりやすかった。毎日欠かすこと無く百枚の動画を入れてくれたし、仕事を通して深井さんの律儀さを感じとれた。だから俺は深井さんの担当の話数になると、特に気合いが入った。たとえそれがどんなにキツい仕事でも、体に鞭打ってがんばれた。
 そんな深井さんに親近感を覚え、いつしかそれが信頼感に変わっていった。
 だが一日百枚の動画はそんなに楽ではない。毎日体はパンパンで、仕事がない日曜日が一番の楽しみだった。それでもたまには体がキツくて、日曜以外でも休みたいと思った事もある。
 そんな体が悲鳴をあげてる時に、夜中の十二時過ぎにトイレに行った。すると玄関先で何やらゴソゴソ・・・。
 すぐに深井さんが仕事の出し入れに来たのだと察した。あ〜あ、明日は仕事したくないなあ・・・と思いながらトイレで用を済ませて仕事を取りに行った。
 すると、ラッキー!! 動画の入れが五十枚しかない。律儀な深井さんにしては珍しいなと思いながら、心の中では小躍りしていた。今日はのんびりできる♪ 嬉しさと安堵感で布団に戻って、再び睡眠。
 ところが朝に眼を覚ますと、玄関脇に追加の五十枚が置いてあった。ガックリしたと同時に、なぜか笑ってしまった。
 俺の為に朝まで走り回ってくれたと思うと、有り難迷惑だったけど、嬉しかった。
 その日は体は疲れていたが、感謝の気持ちが疲れをねじ伏せて仕事が出来た。言葉は交わさなくても、深夜の仕事の出し入れだけで、深井さんと俺はいつしか心が通じ合っていた。
 後に深井さんはディズニープロに行ってしまったが、今はどこで何をしているのやら。