息抜き

                                                                                                           2015/08/25





アニメーターの一日はハードだ。
一日中机に向かい、精神を研ぎ澄まして絵を描く。特に雑草プロは毎日がアップ日の仕事が多い。前日の夜に入った仕事は翌日の夜までに終わらさなけりゃならない。他にも複数の仕事があるから毎日大忙しだ。特に電車通勤組は一時間以上かけて帰宅する。それの繰り返し。

帰りが遅いから、風呂は朝に入るという人間もいるが、アパート暮らしの男達は風呂そのものが無い。
食事も金が無いから質素で、大体がカップ麺か菓子パン類で済ませている。その食事が済むと、机に突っ伏して休んでる人間がいる一方、仕事が進んでない人間は、食事抜きで作業をしている。
何よりも仕事の上がりを優先してしまうのが、アニメーターの習性なのだ。

そして下請けのアニメーターには祝日の休みやお盆休みは無い。休みはほぼ日曜日だけだ。出来高制のアニメーターは、休めば休むほど収入が減る。出来高払いという体制は、日雇い労働者に近い。仕事がはかどれば良いが、内容に左右される為、運によってその日の賃金が決まる面がある。
ベテランが丸一日作業しても二千円以下の仕事もある。

この時期雑草プロでは、休みたい人だけ日曜の前後に一日だけ休みを与えた。ふるさとに帰った人間もいたが、殆どの人間は都内で過ごし、休みを取らなかった新人もいた。
俺もその一人で、お盆休みを取ったところで、もう帰るふるさとの実家も無い。

世間がお盆休み中の日曜日。運動不足とストレス解消を兼ねたハイキングに行ってきた。場所は埼玉県の長瀞(ながとろ)

長瀞は個人的に何度か行っているが、遠出で交通費がかかるので、参加人数は俺を含めて四人。
池袋からレッドアロー号を使って、長瀞までの往復の交通費が5000円を越える。貧乏人のアニメーターにとって、5000円はかなりキツい…
この俺でさえ食事を切り詰めて、50円玉を貯めて何とか交通費を捻出したぐらいだ。本来ならば全員の交通費ぐらい出してやりたいが、各自自己負担という情けないありさま…

その長瀞と言えば「ライン下り」が有名なのだが、前日に雨が降ったらしく、川の水が土色だったのが残念だった。その代わり、普段は見られない滝がいくつか出来ていて豪快だった。
その舟でのライン下りは、貧乏アニメーターの旅だからパス。遠くから眺めて乗った気分を味わった。

川沿いの岩畳を散歩して、宝登山(ほどさん)にロープウェイで登った。頂上には動物園があるのだが、入園料がかかるため入口だけ見て引き返した。帰りはロープウェイ代を浮かすため、徒歩で下山。そんな節約ハイキング。
持参した弁当で昼食を取り、スィーツは何故か畑に実ったトマトとキウイが必死で俺達を呼んでいた。(少々強引だが…)トマトはなかなかうまかったが、罰が当たったのか、キウイは舌を攻撃してきたまずさだった…

順序は逆になるのだが、最初に行ったのは埼玉県立博物館。ここでは恐竜の化石を見てきた。
メインはパレオパラドキシアの骨格。このパレオパラドキシアという恐竜は、世界中で一番多くこの近辺で発掘されているとのこと。(写真①参照)
昔はこの近辺は海だったらしく、巨大鮫の顎の骨も展示してあった。(写真②)

    
【写真①】パレオパラドキシア。 長瀞には、          【写真②】こんな巨大鮫がいたとは!    
この恐竜にちなんだパレオエクスプレス                  …南とのハイキングも今年が最後になる
ていうSLが走っている。                                          だろう。


帰り間際に宝登山神社にお参り。せめて一般の人ぐらいの収入が欲しいと… そして長瀞から秩父に戻って、再びレッドアローで帰途に着く。

帰った翌日、仕事の合間に長瀞で拾ってきた石で、長瀞のイメージをジオラマで再現してみた。(写真③)

                    
                   【写真③】単なる石も少し手を加えると面白い(30分程度で完成)

つかの間の小旅行だったが、いかに金を使わないで楽しむかが、アニメーターの宿命だ。9月になったら、毎年雑草プロ恒例となっている高麗の「曼珠沙華」を見に行こうと思ってる。

大きな目標の合間に小さな目標を入れながら、仕事しないとテンションも上がらない。
たぶん俺はあと10年ぐらいしか生きられないだろうから、それまで全力で楽しみながら突っ走る。