道楽アニメーター







今月いっぱいでミイ(仮名)が辞める。

二年前に入社してきた二十代前半の女の子だ。アニメーターを目指して新潟から上京してきた。

ミイは筋も良く、現在は第二原画を描いていて、俺も期待していた女の子だった。リタイアの原因はやはり収入…

それに加えて、体力面での不安も加味してるらしい。

多くのアニメーターの一日は仕事づけ。ミイも毎日10時間ぐらいは仕事している。ほとんどが会社とアパートの往復だ。そのうえ収入は1ヶ月10万円に満たない…(特にここは…)

ミイが住んでるアパートは風呂付きアパートで、ひと月の収入の半分以上が家賃で消える。男だったら風呂無しのアパートでも我慢できるものの、やはり若い女の子にとっては、風呂が無いと厳しいらしい。

ミイは食事時になると、毎日アパートに帰って自炊しながら頑張っていたが、ついに限界がきたようだ。

同じく雑草プロのタマも今月で辞めるが、タマはアニメに向いてないから、別の道を選んだ方が賢明だろう。そう本人には言ってあるが、本人はまだアニメに未練があるらしく、他のアニメ会社にチャレンジするつもりもあるようだ。

引導を渡してあげるのも俺の優しさ。俺の40年間のアニメ人生でも、タマは下から三本の指に入るレベル。それをタマは環境が変われば自分も変われると思っているようだ。

それは有り得ない。

上手くなる奴は環境を選ばない。場所や他人のせいにするのは未熟な証拠。

野球で例えるなら、ジャイアンツで野球が出来ないから、野球が上達出来ないと言うようなもの。

それが証拠にタマの後輩達は、みんなタマの倍ぐらいの仕事量をこなしてる。タマはことごとく後輩達に抜かれてるのだ…

タマを例に出して悪いが、こういうアニメーターが多いのも事実。自分自身が見えない。画力は己との戦い。それを環境のせいだと思ってしまうのであれば、すでにアニメゴロ、アニメゾンビの仲間入り。

タマは実家通勤で、家にお金も入れてないようだから、生活の心配もなく気楽にアニメが出来る。

続けるにしても都合のいいアニメーターにだけはなっては駄目だ。

俺が昔タツノコの仕事をしていた頃、制作進行が焦っていた事があった。原画が間に合わなくて、いろんなアニメーターに電話をかけまくっていた。

内容が重い仕事だったので、ことごとく断られて、最後に静岡のアニメーターにたどり着いた。

7カットの原画の仕事の依頼だったが、割りに合わない内容の仕事だった。

俺が進行に「これじゃあ、この人食えないよ」と言うと、進行は「いいんです、この人は親のスネかじりで、道楽でアニメやってますから、そんなこと考える必要は無いんです。」と返事が返ってきた。

進行の話によると、割りに合わない仕事の最後の砦は毎回この人頼みだったようだ。

この人は仕事が無い時は遊んでいて、ある時だけ仕事するという道楽アニメーターだったようだ。

その後は電話で演出と打ち合わせをして、何とか危機は去ったようだった。

今現在のタマは、そんな道楽アニメーターの一人。一人前のアニメーターって言うのは、自立して生活出来てるアニメーターのこと。

続けるならそれを目指さないと一人前じゃない。

言い訳ばかりしていちゃカッコ悪いし惨めだ。

そんな道楽アニメーターの貢献で、アニメ界が保っている面もある。