貧乏送別会







タマとミーが辞めた。二人とも約二年間のアニメーター生活だった。

特にミーは筋が良くて、期待してただけに残念だった。性格もハキハキして我慢強いから、きっと別の世界でもしっかりやっていけるだろう。

一方のタマは怪しい…

そそっかしいし、思い込みが激しい性格だから、少し危険性を感じる。今までタマは何度か登場したから、少しは想像できると思う。

そのタマとの二年間は、すれ違いの連続だった。タマは決して悪い人間じゃないが、独特の感性と要領の悪さにいつも悩まされた。

俺は本気で怒ったし、しばらくシカトするといった繰り返しだった。仕事に関しては、あまりいい思い出は無い。

だからといって、仲が悪かったという訳でも無い。仕事が絡まなければ、タマのヘマは楽しかっし、ドジも笑い話で済んだ。

昼休みには公園で運動したり、休みの日には時々遊びに行ったもした。また俺の自宅に来て、中学生の娘の家庭教師役もしてくれた。

タマは数学が得意で、驚くほど勉強ができた。娘に勉強を教える姿は、まるで別人。教え方も上手く、おだてて乗せるのも上手かった。娘はそんなタマが大好きだった。

タマは仕事ではヘマばかりなのに、なんでそれを仕事に生かせないんだと、いつも俺に言われていた。

アニメと漫画の知識はスタジオで一番詳しく、同じく漫画好きの娘とはウマが合った。

フィギュア好きの趣味は俺と少し合う部分もあった。一度二人で仕事を抜け出して、専門店にお宝探しに出かけてしまった事もあった。

ハイキング、カラオケ、酒、遊園地、などなど、タマとはいろんな交流があった。

俺にとっては「駄目な妹」そんな感じだった。その駄目さ加減にイライラして、人間否定みたいなキツい事まで言った。

傷つこうが、ヘコもうが、本気でいくのが俺の流儀。
その辺は、たぶんタマもわかってると思う。

最終日に俺に「便器のラジコン」をくれたのもタマらしかった。

タマ・現在24才。漫画みたいなドジな女の子。ずっと雑草プロの「伝説の女の子」として語り継がれるだろう。

タマの今後は、まだ決まってないようだが、タマの今後もヘマだけは、まだまだ付きまといそうだ。

ここ雑草プロでは、円満に退社する人間には、ささやかな送別会を催す。

送別会と言っても、会社からは一円の予算も出ないから、各自の自己負担になる。各自100円ショップで安いチューハイとツマミを買ってきて、スタジオで思い出談義。小金を出し合ってのセコいプレゼントの贈呈。そして全員での集合写真。

みんなビンボーだから、それぐらいしかしてやれない。

そして人が辞める度に、会社には物が増えていく。

会社は必要最低限の物しか買わない。テレビもビデオも無いのだ。ガスコンロさえ無い。

仕事に使う棚でさえ、みんな自己負担で買っている。みんな持ち帰るのが面倒だから、いろんな物を会社に置いていく。

タマも少しばかり物を置いていった。タマが置いていった座布団は、俺の棚の上に置いてある資料の「ホコリよけ」として、資料の上にかぶせてある。

俺が五年前にここに来てから、66人の人間が辞めて行った。毎月必ず1人以上は辞める計算になる。

近々また新人が何人も入ってくる。果たして続く人間が何人いるのだろう…

そして、リタイアするにしても笑顔で送別会が開ける人間は何人いるのだろうか?

廃人みたいに人間を拒否した、アニメーターだけは、ごめんこうむりたい。