自己満足







ホッとした…

人事ながら安心した。

と言うのは、22才の新人の男、岩沼(仮名)が、何とかやっと本番の仕事にこぎ着けた。

長い日数だった。ここに来てから、約3ヶ月の練習期間だった。

毎日スタジオに通っては練習に明け暮れていた。

岩沼は地方から上京して、アパートを借りて生活している。

本番の仕事に入れたとはいえ、3ヶ月間の練習期間は一円の金も入らない。そのうえ、今作業している仕事の支払いは2ヶ月後なのだ。

つまり5ヶ月間は無給で金が入らないということだ。

まだまだ不安はある。本番に入ったとはいえ、岩沼はまだまだビギナークラス。

俺の長年の目の判断だと、今の岩沼のレベルでは、ひと月の収入は2~3万円ぐらいにしかならないだろう…

それは本人にも話したし、本人も理解している。

岩沼は「大丈夫です。今、派遣の仕事に登録していますから、日曜日にバイトすれば、月に4万円ぐらいにはなりますから。」と意外に明るい。

それを足しても1ヶ月の全収入は6~7万円ぐらいにしかならない…

「いいえ、自分の分に合った生活をすればいいんですから。」と気丈な岩沼。

岩沼は母子家庭で妹が一人。親にはあまり迷惑をかけたくないと、今現在もギリギリの生活をしている。

貧乏でも頑張る奴には何とかしてやりたいが、俺もそんなに余裕はない。

そこで会社の雑務を岩沼に命じて、ひと月に一万円の手当てを付けることにした。俺ができるのはそれぐらい…

食えないのは岩沼ばかりじゃない。まだまだ大勢居る。

中には定期代に困って、集めていたコミックを売って定期代に当ててる奴も居る。

貧乏な奴等にはできるだけ応援してる。

3玉80円のウドンを買ってきて、調理して晩飯時に差し入れたり、飯を炊いて差し入れたりしてる。

おかげで近場の安売り店の、エキスパートになってしまった。

食パン一斤70円、コーラの2リットルが136円、缶コーヒー35円、お茶の缶が29円、コンニャク5円、などなど100円ショップより安い。

俺はスタジオ近辺の食べられる自然植物にも詳しい。

どこに何が生ってるとか、食べ頃はいつだとかわかってる。

時々それらを取ってきては、差し入れに加えてる。
断っておくが、あくまでも、民家の土地に発生してる物は取らない。

中には木に登って、頂戴してくる物もある。たまに手に怪我をしたり、枝に服が引っかかってビリビリに裂けたという失敗もあった。

そんなわけで、最近は創作料理も上手くなった。

貧乏人は貧乏人なりに、楽しみ方を知ってるのだ。

きっとアニメーターになると、物の価値観は変わると思う。

物が溢れ、何不自由なく、親のスネをかじってる若者もいる反面、時代遅れの生活をしている若者もいるのだ。

「世界に誇る日本のアニメ文化」などと、吹聴してる馬鹿な政治家のみなさん。

法律で徴兵制度ならぬ「徴アメ制度」でも作ってみたら?

国民は20才までに必ずアニメーターを経験する。

そして物の大切さを学ぶ。それこそアニメ大国だろうけど、なるわけないか。

政治家のやってるアニメ予算なんて、クソの役にも立ってないのだ。人は育たないし予算の無駄。

アニメ基金でも作って、食えないアニメーターに「おにぎり券」でも配った方がまだマシ。

こんな事を書いてたら、また今日も練習生が一人辞めて行った。理由はただひとつ、「お金が無い…」

練習生でも金地獄、本番入っても微々たる金…

それでもアニメに群がる若者達は後を絶たない。

俺は俺なりに雑草達に協力して応援は続ける。自己満足と言われても結構。そうだから。

俺は、人間誰でも自己満足して、生きてる卑しい生き物だと思ってる。
おしまい。