作画オンチ







長年この仕事を続けて、多くの人間を見てきたが、全くこの仕事に向いてない人間もいる。

スポーツをやらせると全くダメな「運動オンチ」があるように、アニメーターの中にも作画オンチの人間がいる。

ハッキリ言って、全く向いていないのだ。

それでも動画という作業は原画と違って、努力すればある程度は上達する。一流までとはいかなくても、経験を積めば何とかなる。

ところが、中には努力してもダメで、あるのは本人の意気込みだけというアニメーターもいる。

何年やっても手際が悪いから、仕事が上がらず超低収入。

それでも本人は夢を追いかけ諦めることはない。

ボクサーに優れた胴体視力があるように、アニメーターにもそれに似た「線体視力」があると思う。

「線体視力」などと言う言葉は、勝手に作ってみたが、決して大層なものではなく、誰もが持ち合わせている最低限の洞察力みたいなものだ。

例えば野球でフライが上がった時、運動オンチの人間は、その距離感がわからないから落としてしまう。

それと同じで、動画の作画オンチの場合は、線と線の距離感がわからないから、線が何本もあるとそれだけでパニックに陥ってしまう。

頭の中で絵を形として捉えられず、線だけで捉えてしまうから、間の絵が入れられない…そんなアニメーターもいるのだ。

こうなってくるとどうしようもない。歩く事が出来ない人間に「何で歩けないの?」と聞くのと同じで、本人にとっては酷な事なのだ。

本人にとって、その歩くという事は、まず右足を出して、その出した右足に体重移動をして、バランスをとりながら左足を出す、といった具合に難しい作業なのだ。

そんな作画オンチの人間は、ごく普通のアニメーターが5分程度で出来る作業が何時間もかかるのだ…

そんな作画オンチのアニメーターは、大手のアニメ会社には居ないだろうが、この雑草プロに限らず他の下請け会社にもいるだろう。

そういった人は、本来は向いてないし、アニメを志してはいけないのだが、居るのだから仕方ない。

そしてダメなアニメーターほど、同レベルか自分より下のレベルの人間と群れる。

仕事の失敗は、お互いの傷を舐め合い、ヘタの背比べをする。そしてレベルが下の人間に対しては優越感に浸り、いつしか自分のレベルさえわからなくなってしまう。

技術的に得るものも無く、ますますヘタが伝染してしまうのだ。

向上心も失われて、やがて低レベルで満足してしまう。

ヘタだけが伝染してくれるならまだしも、ダメな心まで伝染してしまうとやっかいだ。

それとは逆に底レベルにも関わらず、自信過剰の人間になると手がつけられない。

過去には会社の経営陣にすり寄って、単価は上げて貰うわ、小遣いは貰うわで、虎の威を借りたキツネみたいな女がいた。

その女は強い味方が付いたと思ったのか、たかだか2年程度のキャリアで、40年のキャリアの俺に食ってかかってくる。年齢もまだ20代だった。

そして仕事は南と同じ仕事をして、南の半分程度の仕事量なのに、収入は南よりも上。そのうえ手当てまで貰ってる。

会社に抗議すると、帰ってきたセリフが、「南はお金持ちで、金に困ってないんだからいいだろう」という呆れたセリフ。

散々揉めて、今は居なくなり、えこひいきの賃金体制はなくなったが、もし解決してなかったら、俺は小さな戦争を始めてた。俺はいつだって弱い者の味方。

あまりにも理不尽な事は我慢できない。

どこの世界にも、こういった女はいるんだろうけど、きっとその女はアニメオンチどころか、人間オンチだったんだろうな。