マンガの続き







人との出会いには不思議なものがある。

これから語ることは決して自慢話じゃない。最後に不思議な偶然が待っていた。

知人の知り合いで、アニメ好きの弥生(仮名)という女の子と知り合った。弥生はまだ高校を卒業したばかりの18才。

俺はいつも心は開けっぴろげで、自由奔放に生きている。

そんな俺の性格が気に入ったのか、弥生は俺と知人とのハイキングに付いてくることになった。

そんな弥生とは、何故か不思議なほどウマが合った。そのハイキングがキッカケとなり、弥生とは遊び友達になっていった。

兄弟は多いものの、末っ子だった俺としては、可愛い妹が出来たようなそんな気分だった。娘や孫と言わないのが図々しいんだけど、お許しを。

だが俺は弥生をどうにかしてやろうなどという、不純な気持ちは全くなかった。だから妻や娘にも紹介したし、娘とは仲良しだった。

そうして弥生とは、休日によく遊びに出かけたが、あくまでも健康的な付き合いだった。
そのうち弥生は自分の悩みを相談してくるようになった。不思議なことに俺は弥生には何でも話せた。俺の生い立ちや、経験した事も何でも話せた。また弥生も家族や親友にさえ話したことがない事まで俺には話してくれた。

無邪気に弥生をお姫様抱っこして写メを撮ったり、ふざけあったりと、そんな仲のいい兄と妹のような関係だった。

俺はそう思っていたが、いつしか弥生の方は俺を恋愛の対象として見るようになっていった。
そんな弥生の気持ちを薄々感じながらも、俺は単なるファザーコンプレックスだと思っていた。

それにこんなジジイが、18の女の子と対等に付き合っている関係が楽しかった。

ところが弥生の方は、そんな軽いものじゃなかった。

電話で喧嘩すると不安からか、電車で一時間かけてスタジオにまで俺に会いに来た。
そんな時は、弥生をなだめて駅まで送りに行った。駅前で泣かれたこともある。そんな姿を運悪く会社の女の子に見られた事もあった。

雑草プロの古株の人間なら弥生を知っている。時々訪ねて来るわけだから知られて当然だった。特に南やタマは事情を知っていて、何度か一緒に食事をしたこともある。

ある時、また訪れた弥生を駅まで送りに行った時、駅のベンチに肩を並べて座った。すると弥生は俺の肩に顔を乗せて、俺の太ももに手を乗せた。そしてその手をゆっくりと上下に動かして優しく撫で始めた。
弥生を邪険にするわけにもいかず、そのままでいると、通りすがりの乗客が俺達をジロジロと見る。

すると弥生が、「ねえ、今の人、会社の人?」

俺「違うよ、会社の人間じゃない。」

「そう…」弥生は不思議そうな顔で、再び俺にしなだれかかって、再び俺の太ももを撫で始めた。

再び弥生が、「あそこでこっち見てる人は会社の人でしょう?」

俺「全然知らないよ。」

「嘘! じゃあ何でこっち見てるの?」

俺「馬鹿…端から見れば、俺はジジイ、そして弥生は明らかに十代の女の子だぜ。そんな二人がこんなふうにしてたら変だと思うだろ?…」呆れながら俺がそう言うと弥生は、「そっかあ~!」と初めて現実に気が付く有り様。

恋は盲目という言葉があるが、まさにその通りだった。

そんな弥生の俺に対する気持ちは、会う度にヒシヒシと伝わってきた。
だが俺はいつもそれをはぐらかしていた。

弥生「私の事をどう思ってるの?」

俺「可愛い妹だと思ってるよ。」

弥生「ふう~ん…」怪訝そうな顔で続ける。「何でいつも自分からは誘ってくれないの?」

俺「弥生が俺を必要なら、俺はいつでも会う。でも弥生が俺を必要としなくなったら会わなくてもいいんだ。」

「ズル~イ! なんでそこに自分の意思が無いの?」弥生は口を尖らせた。

それは本心だった。俺なんかより、もっともっと弥生に相応しい男は現れるはずだ。それに相手は、まだまだ子供の18才の女の子。最低の男を自負する俺でも、獣には成り下がりたくはない。

弥生からいろんな相談を受けているうちに、いつしか変な迷路に迷い込んでしまった。
何故18の女の子が、こんな醜いジジイに夢中になってるのかが、不思議でならなかった。
弥生を傷つけたくはなかったし、これをどううまく離着陸させるかを考えていた。

弥生に対する俺の気持ちは、可愛い妹以上の感情から進展することはなかった。だからそれ以上のものを求められそうになると、俺は弥生を冷たくしたり、突き放したりもした。

それでも弥生の気持ちは変わらなかった。

正直に言うと、弥生は素直で可愛かった。そして俺は自分が青春時代に戻って、純粋な交際をしているような感覚もあった。ただ、それ以上の関係に踏み込むつもりは無かった。そんな優柔不断な気持ちが弥生を傷つけたかもしれない。

夏の夜、弥生と二人で夜の遊園地に行った。
園内を散歩して、人混みから離れた薄暗いテーブルのベンチに肩を並べて座った。

俺はヤバいと思っていた。弥生の体から発するオーラは、これから俺に何を言おうとするのかが想像できた。

そしてその直感は当たった。

しばらく沈黙があった後、弥生は意を決したように、「私の大事なものを貰って欲しいの…」と言った。

心の中で俺は、貰えるわけが無い…と思った…

俺「…」

弥生「ねぇ、どうして触ってくれないの?…」

俺「…」

弥生「私が汗かきで汚いから?…」

ここまで言われても俺は無言のまま困っていた。

考えた末に出た言葉は、「実はなぁ、悲しいけど…俺は男として終わっちまったんだ。」そう言うしかなかった。

すると、弥生は声をあげて泣き出した。「どうして、どうしてなの…何で私達って、出会うのが遅かったの…」

俺は弥生の肩をそっと抱いて、頭を撫でてやる事しか出来なかった。
嗚咽混じりの声の弥生は、「柳田さんに貰って欲しかった…」そう言って泣きじゃくった。

遊園地の薄明かりの中、二つの唇が一つになった。

そして無言で弥生を抱きしめながら、長い時間が過ぎていった。

無言のままの帰り道。俺は弥生に言った。「なぁ、考えてみろ、俺らはドラマみたいだな。こんな事は普通じゃ有り得ない。18の女の子と50半ばのジジイとの恋物語、ドラマか映画のような世界を俺らは体験したんだ。」

するとションボリしてた弥生が急に明るくなった。「そうだよね! 考えてみると凄い事だよね。うん、凄い!」そう自分に言い聞かせるように弥生は言うと、満面の笑顔になった。そして俺の腕に両手でしがみついてきた。

その後弥生とは何度か会ったが、俺がある話をした時、弥生の顔色が突然変わった。
そして弥生が突然悲しそうな顔で「ごめんね…」と俺に謝った。

話を聞いて驚いた!

前回の話のマネーロンダリング事件の古くからある、思想団体の創始者の直系の末裔が、なんと、弥生だったのだ!

弥生「その事件と私は何の関係も無いんだけど、なんか責任感じちゃう…」そう言って、弥生は悲しいそうにうつむいた。

俺は「弥生とは全然関係ないし、そんなこと気にするな。」と言ってみたものの、偶然にしても、人との出会いの摩訶不思議な運命を感じた。

マンガみたいな話だけど、これが事実なのだ。

そしてある事がきっかけで、弥生は俺よりも自分自身を選んだ。

弥生「私が一番大切なのは家族だから…」

俺はそれで良かった。

弥生はきっと俺の本心は察していただろう。弥生から届いた最後のメールは「柳田さんはもう私には会いたくないだろうけど、私がこんなに心を許した人は柳田さんだけ。」とあった。

弥生が今どこにいて、何をしてるかわからないが、彼氏ができているなら最高だ。

弥生の大切なものは貰わなかったけれど、一時だけでも過去に戻って、それ以上の思い出を貰ったと思ってる。

そんなマンガみたいな出来事だった。

人との出会いや思いは、理屈や常識では計り知れないものがある。

アニメとは関係ない話だったが、きっと何かが、どこかで繋がっていたのだろう。

弥生の幸せを願う。