心のメルトダウン







「明日用事があるので、休ませて下さい。」そう言ってきたのは、30過ぎの雑草プロのある原画マン。

俺「用事って、法事とか何かあるのか?」

男「いえ、他の会社を受けて、その面接なんです。」その男は悪びれることもなく、ぬけぬけとそうおっしゃる…

俺は退社することさえ聞いてない。話をよく聞くと、結局はその会社が受かったらここを辞めて、受からなかった場合はここに居る腹づもりのよう…

当然俺は激怒!

しかし本人は罪の意識がない。「誤解です」なんておっしゃる。

その日はすったもんだした挙げ句、それでも腹の虫が収まらなかった俺はタマに相談。

すると返ってきた言葉が「難しい問題ですね…本人には本人なりの考えがありますから…」

その瞬間、今度は俺はタマに激怒!「何が難しいんだ! 社会のルールとモラルっていうものは無いのか! お前、今日帰ったら、お父さんかお母さんに俺が怒るのが間違ってるかどうか聞いてみろ! 必ずだからな!」

ここのアニメーターの倫理ってこんなもん…

そして一生懸命に面倒をみても逆恨みや裏切られる事もある。

以前にいい加減な元スタッフと裁判で争った時があった。その裁判では、俺に対する相手側の作り話の暴力やセクハラで唖然とした。

もっと驚いた事は、社内に「二重スパイ」がいたという現実だった。

こちらの情報を相手側に伝え、相手側の情報もこちらに流して、善人を装ってた人間がいたのだ。

裁判で相手側の答弁書を見た時に俺は愕然とした。情報を流したのは雑草プロの香川(仮名)。

当時雑草プロに在籍していた28才の男だった。

当時の香川は雑草プロで一番手がかかる男で、公私共々俺が一生懸命面倒をみていた青年だった。

香川は根っからの悪人ではない。ただ、そういう事の善悪さえ理解できない男なのだ。

本人は全く罪の意識など無く、お互いに嫌われたくない一心で行動してしまう。

裁判記録にはっきり残っているが、それでも俺は香川を許し、しばらく香川は雑草プロに居た。だがそういう性格は全く治らず、似たような事を繰り返してしまう。

こういう人間が一番困る。本人に自覚が無いのだ。人に嫌われたくない一心で口が軽い。自分のオナニーから彼女とのエッチ話まで、多数の人間の前で話すのだ。自分の彼女の過去の性癖まで事細かく…

その事実を知らされた彼女も動揺さえしない…

それで自分は素直で正直者だと思ってる。

他人に対する優しさだけが売りの男だが、その優しさでさえ「押しつけの優しさ」

僕はこんなに優しいんですよ、こんなに親切なんですよって、見せびらかしながら生きている。他人にへりくだりながら、へつらいながら生きている。

そんなことは誰でも出来る。真の優しさは見せるものじゃないし、口先で語るもんじゃない。何も無いから押しつけの優しさだけで勝負しようとする。

香川はそれを見透かされれば「僕は最低の男です」と泣いて逃げる。

逃げたあとには「いつクビにしてくれてもけっこう」と開き直る。

時にはその歪んだストレスが爆発する。自分は最低の男だと言いながら、それを認めてはいない。

本当の最低の男は決して逃げない。うわべだけ、俺の真似だけして生きている。

香川はもうここにはいないが、俺は最低を認めながらも、大地に立って生きている。

香川の「最低」はすでにメルトダウンしている。その恐ろしさに気付かなければ、いずれは必ず破滅する。

「倫理観の欠如」

最近の若者がそうなのか、閉ざされた空間で仕事するアニメーターがそうなのか、俺にはわからない。

そんな人間を通して、俺も心の勉強をさせてもらってる。