超ベテランアニメーター







あるアニメを番組を見ていて驚いた。

エンディングのスタッフリストの動画で先輩の名前が出ていた。

その人は、俺がまだこの世界に入って新人だった頃、仕事を教えてもらった人だった。

その人は大町さん(仮名)という人で、当時の彼女はまだ21才だった。

当時17才だった俺にとって、21才という年齢は、かなり年上のお姉さんに感じられた。

ということは、俺より4つ上の大町さんは、すでに60を越えてることになる。

ご苦労様です。恐れいりました。自分より年上の現役アニメーターは、かなり少ないとは思っていたけど、よもやアニメを教えてくれた先輩が、まだ現役で頑張っていたとは…

その大町さんは、新人でまだ右も左もわからない俺を優しく面倒見てくれた人だった。

大町さんは動画を描くスピードが早く、ひと月に2000枚の動画を描いていた。

当時のアニメは、今よりも線や影は少なかったとはいえ、大町さんはいつも定時で帰っていた。それでも彼女は1ヶ月に2000枚ぐらいの動画を描いていた。(マジンガーZの時代である)

昔のセルの時代の動画は、流れで動画を描けた時代だった。

鉛筆を滑らしながら、筆の勢いとリズムで線が引けた。鉛筆タッチが主流の頃の作品は、それなりに楽しかったし味もあった。

今でも再放送などで「あしたのジョー」や「ガンバの冒険」などを見ると、タッチ線に迫力があるし、何とも言えない味がある。

確かに今の緻密に描き込んだアニメとは比較対象にはならないが、動画の影を裏から塗ることもなく手間も省け、作業がやり易かった。

テレビの画面で見かけた大町さん、名字も変わってないし、独身を通したのか、ペンネームとして旧姓を使ってるのか、いろいろ想像してしまった。

当時、間借りしていた会社のビルの屋上に大雪が積もった夜、大町さんを含めた先輩方と雪合戦をした。あまりのはしゃぎぶりに、翌日から屋上は使用禁止になってしまった。そんな出来事を思い出す。

会社内もみんな家族的で、貧乏ながらも楽しい日々だった。

大町「ワタシね、マジンガー描いてた時、画面のフレーム外にホバーパイルダーを描いて動かしてみたの、その後セルを見る機会があって、セルを見てみたら、ちゃんと全部に色が塗ってあったの」とイタズラっぽく笑った。

仕上げの人には迷惑な話だろうが、大町さんはそんなイタズラ好きの先輩だった。

その大町さんとの別れは、会社内でのゴタゴタが原因だった。そして大町さんは会社を去った…

そのきっかけは、絵の上手い女性が入って来たのだが、社長がその女性を大事にし過ぎたあまり、みんなの反発を買ってしまった…

問題になったその女性は物事をハッキリ言う性格の人だった。

ある時その女性が「ここの女達は、ろくすっぽ掃除も出来ない、掃除が下手」と社長に御注進。

それを社長が「ごもっとも」とやってしまった…

そしてベテランも含め、社長が女性陣に説教したものだから、みんなの反発を招いてしまった。

「私達より新人ばかり大切にして…」

それがきっかけになって、先輩女性陣の溜まり溜まったストレスが、会社を去らせる要因になってしまった…

そしてほとんどの女子が辞めて行った…

その中の一人に大町さんも含まれていた。

当時何人かの先輩女性から、いろいろ愚痴を聞かされたが、当時まだ17才の新人の俺は、どうする事も出来なかった…

その物事をハッキリ言い過ぎて、物議を招いた女性は、数年後に再びある事件に巻き込まれる。

アニメ界を揺るがせたリンチ事件の「被害者」としてマスコミ紙上に取り上げられる事になる。(大事件勃発参照)

尚、大町さんは事件とは全く関わりがないので、それだけはハッキリ証言しておく。

たった一瞬だけテレビ画面のスタッフリストを見ただけで、過去の出来事が頭の中で目まぐるしく駆け回った。

これからもきっと、何かの拍子に俺の頭の中に住む、過去の雑草人が動き出して過去を呼び起こすことだろう。

今教えている雑草達との交流と共に、雑草物語だけが増えていく。