おもてもウラもなし







雑草プロの女の子達が、日曜日にある遊園地に「プリキュアショー」を見に行った。

その遊園地は俺の自宅近く。前日に話を聞いていた俺は、みんなにナイショで行ってみる事にした。

ショーには全く興味は無いのだが、家の近くだし、突然現れてビックリさせてやろうという思いだった。

俺が到着すると、彼女達は野外ステージの観覧席に座ってショーを楽しんでいた。

囲われた観覧席に近づくと俺の姿に気付いた女の子達は、案の定みんなビックリしていた。

そのステージに目を向けると、すでにプリキュアショーは終わっていて、ステージには声優の「神谷明」が立っていた。

アニメ好きの人にとっては、説明する必要もない有名な声優だ。

俺にとっては、40年前のデビュー作「ゼロテスター」の主役の声をやっていた人だ。

今ではガンダムで有名な、あのサンライズスタジオが、創映社と名乗っていた時代だ。

そんな懐かしい思い出から、俺は観覧席の囲いの外から眺めてみる事にした。

司会者が観客席に向かって「神谷さんに何かやって欲しい人!」とマイクで叫ぶと、歓声と共に何人かの観客が手を上げた。

そして幼稚園児ぐらいの男の子が選ばれた。

司会者「さあ、ボクは何をやってもらいたいのかな?」アシスタントの女の子にマイクを向けられた男の子は、真剣な表情で「おもてなし」と答えた。と同時に観覧席が爆笑に包まれた。

想定外の返答に司会者は目を丸くして、当の神谷明も「えっ?、えっ?、何?、おもてなし???…おもてなしをやればいいの???」と動揺している。

しばらく間があってから、「じゃあ、毛利小五郎の声でおもてなしをやるね」と言って、手振りも交えて「おもてなし」を披露した。たぶんあの男の子、物マネする人だと思っていたのかもしれない。

そんな事があった翌日。会社で「昨日はあの男の子に笑っちゃったよなぁ」と言うと、土条が「ホント、あの若さで、おもてなしっていう言葉をよく知ってましたよねぇ…」と、しきりに感心してる。

「んっ?」何かおかしい…

俺「なんだ? 滝川クリステルを知らないのか?」

土条「何ですか、その人?」

俺「オリンピックの招致スピーチだよ」

土条「オリンピック?… はあっ?」

俺「何だ、土条は何も知らないのか?」

そこで俺は昨日の会場に居た女の子全員に聞いてみると、全員が「何の事だか、わかりません…」との返答…

そこで俺がみんなに説明すると「そうだったんですかぁ、凄いですねぇ、あの若さであの男の子の言葉にそんな深い意味があったとは…」と、今度はしきりに男の子に感心してる…

「違うよ、あの男の子だって勘違いしてたんだ」俺がそう言うと、「そうなんですか…?」話が噛み合わない…

もはや俺は苦笑いするしかなかった。

もうずいぶん昔の話になるが、あるデパートの屋上で「子門真人ショー」があった時のこと。子門真人が「何か質問ある人?」と問いかけたら、五才ぐらいの男の子に「お前、豚になれ」と言われていた。子供は恐ろしい。

それにしても雑草プロの女の子達も恐ろしい…

全く世の中の動きに疎い…

エジプトに雪が降ったニュースですら知らない。時代に取り残された人間達が今のアニメを描いている皮肉。

この会社にはテレビも無い、新聞も読めない、そのうえ業界屈指の低賃金。

それでもみんな頑張ってる。何故?…

俺にも答えは見つからない…

金が目的じゃないことはわかってる。俺の想像だと、たぶん作業を通した精神的な「居心地」がいいのかもしれない。

ただそれだけなのかも…

きっと「おもてなし」がわからなくても、気持ちは「おもてもウラ」も無いのだ。