ささやかな喜び
アニメーターの低賃金は有名だが、雑草プロはそれに輪をかけた低賃金だ。
よって業界では、アニメ界の墓場と言われている。雑草達が貧乏と戦い、墓場から這い上がるのは大変である。
◎◎制作委員会の進行さんが焦っていた。
少しでもいいので、仕事を手伝って欲しいと、仕事の依頼が来た。
聞けば、すでに作品は出来上がっているものの、丸々一本全てがリテークになったらしい。
詳しい事情はこうだ。
◎◎制作委員会がある下請け会社に作品一本を発注した。
ところが、その下請け会社は、原画、動画、仕上げの全てを韓国に丸投げした。
そうすれば何もしないで差額の金を得る事が出来る。
ところが、クオリティが低くて、全部がリテークになったとのこと。
作監修正から全部やり直しだ。
とりあえず雑草プロでは、第二原画と動画を手伝う事になった。
最近のアニメ界ではよくある事だ。下請けに限らず、大手の親会社も同じ事をしている。
日本のアニメを世界に発信するなどと言っていながら、要は「低賃金で言う事を聞く人材」を海外に求めているだけだ。
◎◎制作委員会の進行さんが聞いてきた。「予算の都合上、第二原画の支払いは、原画料としては払えませんので、動画の枚数に換算して支払いたいのですが…」
んっ…???
どんなカラクリがあるのかわからないが、俺は頭の中で素早く計算した。
第二原画の元値は2000円だ。それを会社から半分引かれるから、1カット1000円しかもらえない。
そして動画1枚の元値は200円だから、第二原画を動画枚数に換算すると10枚分になる。
ところが、この雑草プロの動画の1枚単価は120円だ。それを10枚×120円で1200円になる。
つまり本来会社から1000円しか貰えない第二原画料が動画枚数で換算すれば、1200円になるのだ!
(わかったかな?)
おお~っ!!
差し引き200円のプラスだ!!
その方が雑草達も助かる。雑草プロの人間にとって200円は大金だ。「うまい棒」が20本も買える!
冷静さを装いながら、俺は進行さんに、「ああ、それでいいですよ。」と言った。
進行「有難う御座います、じゃあ発注伝票は全部動画枚数代として切ります。」
その事を第二原画を作業する人間に伝えると、「ホントですか!! 1カット1200円も貰えるんですかぁ!! ラッキーですねぇ」と笑顔。
「これは会社にはナイショだぜぇ、第二原画じゃなくて、動画を作業した事にすればいいんだ。発注伝票の証拠も揃ったしな。」俺はそう言って、してやったりと感慨にふけっていた。
だが、しばらくすると、なんだか妙に空しくなってきた。
そして自分が少しミミッチイ人間に思えてきた…
大の大人が子供の小遣い程度の金で一喜一憂してる…
いやいや、イカン、イカン、これがアニメーターの運命。現実を受け入れよう。
200円でも馬鹿にならない。
近くの腐った八百屋で、200円で腐った桃が5個買える。腐った部分を剥いで食べればいいだけだ。毎年雑草達は食べている。
「輪廻転生」
腐って捨てた部分は、やがて雑草の肥やしになる。前向きにそう考えよう。
さあ、桃だ、桃だ。
小さな子供の声が聞こえた。
「ネェ、ママ~、あのおじちゃん、あんなの買ってるよ、アレ食べられるのぉ?」
…無視しとこ。