意思疎通を欠くアニメ







雑草プロの女の子が、他の下請け会社から依頼された第二原画を描いていた。

ふと覗くと、タイムシートに荒々しい走り書きが書いてある。「まともな絵を描いて下さい‼」

それは第一原画に対する怒りのクレームだった。

おそらく他社の作画監督が書いたであろうと思われる文章だった。

第一原画を見ると、確かに雑な絵でかなりテキトーに描いたラフな絵だった。確かにこの絵じゃ怒るのも無理はない…そう思った。

そしてその第一原画には、作画監督が修正した絵が何枚も添えられていた。かなり時間を労した丁寧な修正だった。

絵を通した他社の作画監督の第一原画マンへのメッセージだった。

だが、この第一原画を描いたのは、ここのスタッフじゃない…

描いた本人に返さなければ、作画監督の意志は伝わらないし、手間と思いは無駄になる。

アップ日に追われ、下請け同士で仕事を回して、意志疎通を欠いたそんな作画環境がある。

こういう事はしょっちゅうだ。

最近では下請け会社が、受けた仕事を丸々海外に発注する事もある。

安い労働力を求め、原画や動画も仕上げまで含めて、その差額マージンを稼ぐためだ。

そして時々問題が発生して右往左往してる。殆ど完成していながら、質が悪くて原画から全部描き直しになる時もある。

そんな仕事がここにも回って来る。カット袋には演出が書いたであろうと思われる文章が書いてある。「必ず国内で!」とか、「とにかく日本語のわかる人間に出して!」とか様々だ。

利益だけを考える制作の人間と現場の人間とのギャップはある。

ここに居る連中だって、今のアニメ界の環境に釈然としない気持ちはあるだろう。

作品に思い入れを持ちたくてもそれが出来ない。ただ流れ作業的に「やっつけ仕事」が回って来る時もある。

下請け制度は様々な問題がある。だがアニメーター全員を社員で雇ったら、日本のアニメは成り立たなくなる。もしくは本当に上手いアニメーターだけが残り、作品の数は激減するだろう。

知らない作品を、知らない演出で、知らない第一原画マンの絵をまとめて、知らない作画監督にチェックを受ける第二原画マン…

そこには言葉や感情も存在しない、その場しのぎの作業…

それでも雑草達は、ここでは1カット千円にしかならない仕事を黙々と描いている。

世間を閉ざさないと、やってられない気持ちも少しはわかる。

アニメ界がまともになる事を願って。