奇跡のスイカ
仕事が終わってから、ある事を思い出した。
会社の冷蔵庫に南から貰ったスイカがある。南のお父さんが家庭菜園で作ったスイカだ。
南を含めた数人でそれを食べることにした。
俺は残ってた人間を集めてウンチクタレた。「君ら、このスイカはだなぁ、そんじょそこらのスイカじゃない。南のお父さんが家庭菜園で作ったスイカだ。恐れ多くも、あのレコード大賞も受賞した先生の作品だぞ。」
さっそくスイカにナイフを入れた。サクッ…
「あっ!???…」周りからどよめきが起こった。
んん?…こっ、これは…
すっ、素晴らしい… 品種改良でもしたのか、皮もブ厚く、色はサーモンピンク。そして所々に美しい流れ雲のような白い筋がある。
さっそくみんなで頂くと、むむっ!俺達の健康に配慮してくれたのか、甘味はかなり抑えてある。メタボ対策であろう、微かな微かな甘味…
そしてズッキーニを連想させるようなしっかりとした歯ごたえ。
種は誤って飲み込んでしまっても、安全な柔らかな白色だ。
また果汁が垂れないように水分は抑えてある。果汁が垂れて食する人間の口元が汚れぬよう配慮されている。
また形も少しいびつな部分もあり、手が滑らぬように工夫されている。
これほどまでに食する人間の立場を考えて、作られたスイカが未だかってあっただろうか?…
凄いのはこのスイカは他にも利点がある。薄く切って浅漬けにもなる。煮込めば大根の代わりといった具合に他の料理にも応用が利く。
まさに芸術的な万能食材だ。
その感動に手元が震え、なかなか喉元を通らない。
「無理して食べなくてもいいよ」南の声がする。
…哀れな…
愚かな人間にこの味はわからない。
「去年はもっと赤かったんだけどなぁ…」南がほざく。
この色が良いのだ。決して他では味わえない巨匠の作品。(そうですよねぇ、お父さん)
一方雑草達は誰も言葉を発する者は居ない…黙々と食べている。そしてついに完食した。
スイカが半分残ったので、スイカが大好きな土条と同棲中の彼氏の為に持って帰ってもらう事にした。
ところがその夜、土条の彼氏が、前方不注意のトラックに跳ねられて、鎖骨を折ってしまった。
命に別状はない。これもあのスイカのおかげ。
あのスイカが守り神として部屋に存在してなかったら、おそらく…彼は死んでいただろう。(大袈裟か?)
恐るべし作詞家の奇跡のスイカ!
同棲中の土条と彼氏の二人にとって、今年の夏は忘れられない「二人の夏物語」
これはスイカを作った南の父のヒット曲だ。
点と点が繋がった。まさしくあのスイカは幸運をもたらした。物事はそう良い方に考えよう。
南のお父様、ご馳走様でした。