アニメーターのギャグ

                                                                                                           2014/11/18





俺は毎日自転車出勤だ。雨が降った時だけ電車で会社に向かってる。

ある日、自転車で出勤途中のこと。会社近くの小さな路地を曲がったところ、前から車が来る。狭い路地なので自転車を左側に止めて、前から来る車が通り過ぎるのを待った。
前から来る運転手から見れば前方はT字路だ。

運転手は曲がろうとしてゆっくりと車を走らせながら、段々俺の方に近づいて来る。
だがT字路の先は左右から車が流れていて曲がれない。そして車は俺のすぐ隣で止まった。

その時だった。俺の右足に激痛が走った。
足を見ると、車の後輪が俺の靴の上に乗っている。
足の痛さに車の窓を叩こうとしたら、窓がない…
「現金輸送車」だ。

窓が無いからボディを叩いた。
ドンドンドンドン! ドンドンドンドン! おかまいなしに現金輸送車のドアを叩いた。

後ろを振り向くと、異変に気がついた運転手は、運転席の窓から首を突き出した。そして「大丈夫?」
「大丈夫じゃねえだろ!、早く車を動かせ!」俺が怒鳴ると、すぐさま車が動いて事なきを得た。足にも怪我はなかった。

そんなギャグみたいな事があったが、銀行強盗じゃない限り、なかなか現金輸送車を叩けるもんじゃない。
運転手も悪気があったわけじゃないだろうから、そのまま許して別れた。
まるでドリフのコントみたいだった。

相手に悪気が無くても、生きてる限り腹の立つことはいろいろある。
そんな時は後輩のジーベックの羽腹君の言葉を思い出す。

「柳田さん、そんな輩と同じ土俵に上がってはいけません。」…名言だ。
それを思い出して冷静さを取り戻す時もある。

やっかいなのは、自分を全くわかってない人間。
「私はまだまだ動画は自信がないんです。」と俺には言っておきながら、同僚には「あそこの会社のアニメは低レベル」だとか、「質が悪い」とか平気で言える奴。
そういう人間には何を言っても通じない。自分を過大評価してるから、誰が何を言っても通じない。
それが仕事にも当てはまる。だからいつまで経っても上達しない。
動画も満足に描けないくせに、じゃあ、お前は上手い原画が描けるのかい? と言っても無駄。三歩歩くと忘れてしまう。

こういう馬鹿はどこの会社にもいる。そんな奴に限って礼儀知らずで口先だけの人間。
「ここには好みの男なんかいませんよ」と他人の事はとやかく言う。まあ、それは本人の自由だが、大口っていずれ自分に返ってくる。
男達が言う。「柳田さん、●●さんって、美意識って持ち合わせるんですかねぇ、気にならないんでしょうか?…」と不思議がる。
それが全てを物語ってる。

とんでもない奴に限って自信満々、自分がそこそこだと思ってる。

「柳田さん、そんな輩と同じ土俵に上がってはいけません。」
どこかでまた羽原君の言葉が聞こえた。

土俵?、あやうく見かけで土俵に上がりそうになってしまった。
これは現金輸送車を叩くのと同様、なかなか経験出来ない素晴らしいギャグなのだ。

相撲は見るもの。同じ土俵に上がっちゃ駄目。
相手にすると怪我をする。

ジャンジャン。