直球対直球

                                                                                                           2014/08/18





サッカーのJリーグやプロ野球の選手になりたい人間は全国に数えきれないぐらいいる。 そして上手い選手も数多くいる。
その中から数多くの優秀な選手が厳選されて、ふるいにかけられてプロの道に進める。

絵が本当に上手い素人だって全国にゴマンといる。
ところが、何故かアニメーターだけは格下だと思われてるのか、それさえもわからず安易な考えの応募者が多い。

だが、クラス一番、村一番程度のレベルじゃどうにもならない。ここ雑草プロに来る人間はそれさえわかってない人間が多い。

ひどい奴だと数時間で音をあげる。
入って来る人間は大体ふた通り。ひとつは常識タイプ。こっちは自分のレベルをわきまえてる。自信が無いから上手くなろうと努力するタイプ。そして問題も起こさず黙々と真面目に仕事する。

もうひとつは自信家タイプ。下手なくせに自信過剰で素直じゃないタイプ。こういうタイプは上達もしないし、あまり続かない。

大きく分けると、このふたつのタイプがいる。

最近入って来た新人も自信家だが、自信家というよりも何もわからない夢見る一人。
「僕は最低でも、作監になりたいんです。」その言葉に驚いた。
作監は簡単になれるものではないし、最低目標が作監ならば、作監にも失礼だ。

新人に悪気があって言った言葉ではないのはわかってる。右も左もわからない、恐れも知らない素人の言うことだから受け流した。

真面目で何でも話す新人の彼は、美少女アニメにはこだわりと、一過言あるようだ。

新人「美少女アニメの女の子の眼が大きいのは、僕はこう思うんですね。役者さんでも大柄な役者さんの方が映えるのと同じで、美少女の眼も大きいのは、細かな感情表現するのに表現しやすいから、ああいうデザインになってると思うんですね、ですから僕の構想としては美少女を題材にして、武器を持たせて戦わせて…」ウンチクと夢の話は止まらない…

新人「僕の絵を他の会社にも送って、見てもらいたいと思ってるんです。明日柳田さんにも見てもらいたいんです。」

翌日彼が、自信満々に持って来た絵を見たら…

「…」

絵を見る限り、デッサンは狂ってるし、お世辞にも美少女には見えなかった。それよりも趣味の域を出てないアニメ好きの素人レベルの絵だった。

俺は正直に言った。「これはプロの人に見せてはいけない絵だよ…」
ましてこの画風でオリジナルアニメを作りたいと言う野望があるのであれば、自費しかない。
俺は、「この絵で勝負するなら、絵で勝負しちゃいけないな。もしするなら君の世界観で、蛭子義一みたいな味で勝負するべきだよ。」と正直に言った。

意欲満々で何事も真剣に話す新人に対して、俺も真剣には真剣に返してやった。

残念なのは、彼の言葉と裏腹に、絵のレベルが伴ってない。中にはこういった意欲だけが空回りしている人間も多い。過去には人を感動させる為にここに来た、などと言ってた人間も居た。

絵が上達したいなら、まずは己のレベルを知ること。アニメーターも同じ。それがわからない限り、決して上達はしない。
新人にはキツい言葉だったかもしれないが、直球には直球で返す。

新人「じゃあ、どんなに努力しても僕は駄目なんでしょうか? 」

俺「それは誰にもわからないよ。努力で叶うものもあれば叶わないものもある。アニメーターが一番求められてるものは、絵のオリジナリティよりも、絵の上手さだよ。」

おそらく夢見る彼にとっての雑草プロは、夢の階段の一段にすぎないなのだろう。

例えるとするならば、大好きな女の子が居る、でも今は自信が無いから、2ランク、3ランク下の女の子で我慢しとこうという程度だろう。それぐらいはわかる。
それはそれでいい。今までだってここにはこういう人間は多かったし、彼だけが特殊なわけでもない。

彼の救いは、まだアニメーターという仕事を全くわかってないし、憧れと想像だけで、自分自身さえわかってないだけなのだ。そして焦ってる。

救いは素直さがあるだけまだいい。
救いの無い人間は自分の未熟さも認めない。周りから蔑まされても自分だけの世界に居る。

それにしても、こういう話は久々だった。今までここに来る連中で絵の話や、絵の相談なんかしてきた人間はごくわずか。みんな与えられた仕事だけして帰るだけ。
自分を追い込むことさえしない。いい加減な俺だって過去には、絵で苦しんだこともある。俺はそんな駄目だった自分の事も正直に話した。

そのうち新人の目から涙がボロボロ…
彼の涙の意味は俺にはわからなかったが、いい意味での涙であることを願いたい。

そして夢は夢として、アニメーターとしての仕事と切り離してスタートしないと、アニメーターも中途半端な思い出だけになってしまう。

ただ気になるのは、下手な人間は下手な人間と群れたがる。下手な人間逹との群れは百害あって一理なし。下手は伝染するのだ。

今は早く本番の仕事に入れるように頑張るしかない。
たとえ勘違いしてても、正直で爽やかな直球は心地良い。お互いの直球対直球で。