サイコパス

                                                                                                           2014/10/30





無言の空間で毎日仕事していると、時々怖くなる。
特にアニメーターは静かだし、中には全く感性の違った驚くような常識外れの人間もいる。
「彼らは大丈夫なのだろうか…」そんな不安が時々頭をかすめる。

そして遠い過去を思い出す…

俺の育った田舎は異様な所だった。
そこには多くの「サイコパス」が存在していた。
本来ならば可哀想な人達なのだろうが、当時子供だった俺は恐怖だった。

そんな人間に出くわすと何もしてないのに、威嚇されて追いかけられた。そしてたまに攻撃されたりもした。
そんな異常な行動をする人間が何人もいたのだ。

深夜に墓場を徘徊する精神を病んだ若い女性。
知恵遅れで聾唖者の中年男は、村を徘徊して女性を襲った。
殆ど知能が無く、まるで猿みたいな幼女は、凶暴で奇声をあげて、みさかいなく人を襲った。兄も被害にあったが、その幼女は殆ど柱に縛りつけられて生活していた。
髪の毛が一本も無い、無毛障のつるっ禿の女は出くわすと、石を投げて攻撃してきた。知能が低いその女は、全裸でよく川で泳いでいた。

また、親が小遣いをくれないと腹を立て、家に火を付けて全焼させた馬鹿男や、タクシー強盗を試みて、逆に殺されてしまった男もいた。

最初に書いた墓場を徘徊する女は、本当に怖かった。
俺の後輩のYは、中学時代に俺の実家の神社の手伝いで、御札を配りに行った時に災難にあった。
その女に「お前は、御札で私を殺しに来たのか!」と、首筋に包丁を突き付けられた。
そのまま包丁で頬を撫で回されて、恐怖を味わった。

俺の育った田舎では、そんな人間が隔離もされず生活していた。子供達はそういった人間を見かけると慌てて逃げたものだった。

俺の子供時代の昭和三十年代の田舎は、今と違って保護といった観点が緩く、村人は良く言えば寛容だった。
そして今で言うサイコパスが堂々と普通に徘徊していた時代だった。
ひとたび問題が起こっても、警察は介入させず、村人同士で内々に解決していたようだった。

文字の読み書きが出来ない人間も多く、選挙の時は選挙関係者が、読み書きが出来ない事をいいことに、勝手に自分の応援する候補者を記入していた。
投票所が実家の絵馬堂だったから、そんな光景をよく目にした。

以前に書いた「泥棒教師」もこの村人だ。
そういった社会ルールも村独特だった。

子供心に怖かったのは、近所で自殺者が多かった事だ。
村の踏切で飛び込み自殺が二件。
近所の老婆が自殺を図り、深夜に井戸に飛び込んで溺死。
俺の実家の裏の竹林では、結婚を反対された男女が刃物で首を切って心中した。
そして兄の同級生も自殺して命を絶った…

これらは人口も少ない、小さな地域での出来事だ。

また実家の神社には、深夜に「丑の刻参り」に来る村人もいた。
俺は不思議な怪奇現象を何度か見たし、経験もしたがここでは関係ないので省く。

そんな環境で育ったから、アニメ界に存在するサイコパスにさほど驚きもしない。ただ、不快感だけはある。

こういったサイコパスは大小の差はあれ、一般社会にも数多く存在するらしい。
現に今でも俺の周りには、明らかに日常生活しているサイコパスが何人かいる。

優秀でまともなアニメーターには申し訳ないけど、駄目なアニメーターはとことん駄目なのだ。
その駄目なアニメーターに多い挨拶も出来ない、普通の会話も出来ない、他人の感情もわからない自己中心的な人間は、多少なりともサイコパスの部類に当てはまるのだろう。

自分の感情がコントロール出来なくなっていって、やがて犯罪を犯す。
昔、支払いが遅れたというだけで、刃物を持ってアニメ会社に乗り込んで、暴れて逮捕された男もいた。
自信過剰で勝手にアニメ会社を乗っ取った馬鹿女もいた。
また俺が経験したアニメ界を揺るがした大事件も、そういった類だったのだろう。

俺の経験だと、内向的な人間ほど怖い。爆発すると抑えが効かないのだ。
3ヶ月間ここに居て、俺が話しかけても一切口を開かない男もいた。
仕事で注意するとパニックになって、机をバンバン叩き続け泣き叫ぶ女もいた。
善意が悪意に取られて裁判に発展した事もあった…

そんな例えを出すとキリがない…

今でも俺が真剣に話しても、返事さえしない人間もいる。
何度同じ事を言っても、それが実行出来ない…
無表情でまともな返事さえ返ってこない時もある…そして本人は自分が普通だと思っている。

会話が通じない、そして人間を拒否した人間は不気味だ。
人の精神や心の奥底までは誰にもわからない。
変わり者のアニメーターと仕事しながら、時々遠い過去のサイコパスの思い出が頭をかすめる。

「コイツ等は本当に大丈夫なんだろうか」と…

それでも俺は過去も現在も、そして未来も貴重な体験をするのだろうと思っている。