鉄クズ

                                                                                                           2014/09/24





日曜日の夜に会社に来た。
日曜の夜に仕事が入る予定なのだが、まだ入らない。
月曜日に雑草達が出勤するまでに、仕事を配らなければならないのだ。

月曜日の朝に来てやればいいのだが、時間がかかるし、雑草達を待たせるわけにもいかない。
急いでテキトーに配ってしまうと、今度は仕事があがらない。
大体がほぼ毎日がアップの仕事だし、雑草達はまだまだ手がかかる。
各自に見合った内容を選んで、効率を考えなければあがらないのだ。

それが意外と大変なのだ。枚数が多いカットは数人で作業をさせなければならないし、細かな絵が苦手だとか、長い線が苦手な人間もいる。
また画力に問題がある人間には見せ場は回せないし、作業が遅い人間にも多くの枚数は期待できない。

それに雑草達に無理な動画ならば、アタリや下描きを入れてやらないといけない。そんな作業に手間がかかるのだ。
各自の特長や作業内容を把握して仕事を回さないと、当日アップの仕事はあがらない。これがほぼ毎日。

雑草プロの壁には大きなボードが掛けてあり、そこには全員の名前が書いてある。そこに「終わる時間」を書くようにしてある。
早く終わった人間が、まだ作業中の人間をアシストして効率的に仕事を終わらせる為だ。

土曜のうちに仕事が入ってくれれば土曜のうちに作業出来るのだが、入れが日曜の夜になると、日曜も出てこなくてはならない。
そんな訳で会社で待機してると、仕事が入ったのが朝方の4時…大急ぎでこれから出勤して来る雑草のカット分けの作業に取りかかった。

そんな作業をしながら、俺は先週の日曜日の事を思い出した。
先週は土曜日に、大変な動画が入った。
大判で何人も動くやっかいな動画だった。それも複数カットあった。

ただでさえ低賃金で、貧乏な奴らにやらせる訳にはいかない。
雑草達にやらせたとしても、下描きにかなりの時間がかかり、絶対に終わらない…

仕方ないので、俺はその仕事を自宅に持ち帰って、日曜返上で全部の下描きを入れた。
それを翌日に会社に持って行き、新人達にトレスさせた。

全部下描きを入れたからといっても貧乏人から、作業分の枚数は取れない。
「下描き分はいらないから、君らで枚数は全部取っていいよ。」と俺は言った。
俺はタダ働きになるわけだが、大変な作業をする新人達に、俺のせめてもの温情だった。

ところが、誰一人何も言わない。日曜返上でタダ働きした俺に「労いの言葉」すらない。まるでそれが当然であるかのように作業して、全部自分の作業分として付けた。
これがここの若者だ。温情や誠意が伝わらない…

その日は我慢したが、数日後も同じような事柄があったので、俺は注意した。
「君ら、人としておかしくないか? やってもらう事が当たり前、君らは他人に対する労いの言葉も無いのか?」と、かなり強い口調で説教した。
だが、そこまで言われても、名指しで言っても俺の所に誤りに来た人間は一人もいなかった…
これがここの若いアニメーター…そういった感性が全く欠如しているのだ。
みんな悪い人間じゃない事はわかってる。だが結果は「悪人」に変わりはない。

特に今年の新人は「小学生以下」の頭の奴が多い。
最近はもはや注意する気持ちも失せ、ダメな奴は血の通わないマシンと思うことにした。
俺としては機械と割り切った方が仕事はやり易い。感情を排し、冷徹に何の考慮もしなくていいわけだから。

ここに限らず他のアニメ会社でも、「機械」と割り切られてしまったアニメーターは居ることだろう。
まず人の言う事を聞かない。ここにはもっと信じられないような奴もいる。
眼が悪いのか、小さな絵を「虫眼鏡」片手に作業してた馬鹿もいる。それを注意して止めさせたら、今度は眼鏡を二本かけて仕事をしている…
俺の「合う眼鏡を作ったらどうだ」の提案にも頑として拒否。「これでバッチリ見えますから」と呆れたセリフ…
それで仕事が出来るならまだしも、ひと月に動画が100枚程度のしか描けない…

プロとしての道具や用具は大事だという事すらわかってない。100メートル走に下駄を履いて勝負するのと変わらない。
これが今年入った「45才の新人アニメーター」
歳を取るとプライドだけが先行して、己の愚かさにさえ気付かない。

常識が通じない機械のような人間相手に、文句言いながら今日も乗りきるしかない。
贅沢は言わない。機械のような人間だとしても、せめて機械のように仕事出来るようになってくれ。
でないと単なる「鉄クズ」だ。