つぶやき

                                                                                                           2014/09/07





雑草プロの新人の中に一人、変わり種の青年が居る。

粒焼(仮名)という男で、ここに来る前は、ある有名なアニメ制作会社の進行をしていた男だ。
そのアニメ会社の話を聞いてみると、給料は約18万円。厚生年金やボーナス、有給休暇まであったとのこと。

下請けのアニメ会社では考えられない待遇だ。何故それを捨ててまでアニメーターの道に入ったのか不思議だが、本人としては、やはり描きたかったのだろう。

粒焼は本番の仕事に入って、まだ一カ月ぐらいだが、毎日夜遅くまで頑張っている。

粒焼「今まで進行していて、動画さんの上がりを見ても、別段気にも止めてなかったんですけど、実際に描いてみると大変ですねぇ、大変さが身に染みます。」と大変さに驚いている。

俺「なぁ、どうだアニメーターって? 報われないだろう?」

粒焼「こんなに大変だとは思いませんでした。」

俺「金も安いし、アニメーターって、アニメが付くのにアニメの脇役どころか、最下層だって事がよくわかっただろ?」

粒焼「はい、全く絵を描かない人達の方が、潤ってるんだという事が、つくづくわかります…」

俺「そうだろ、まず会議でもアニメーターは排除されてるだろ?」

粒焼「はい、ウチの会社もまさしくそうでした。」

俺「そうだろ? 作品が決まってから絵を決めるぐらいで、他で呼ばれる事は無いだろ?」

粒焼「はい、そういえばアニメーターさんが呼ばれた事は無いですねぇ…」

俺「それじゃ駄目だよなぁ、キャラクターデザインした人間とか、作監とか参加させて、これだと絵が動かしにくいとか、効率性とか、絵を動かす側の意見とかも入れないと。」

粒焼「自分もそう思います。ウチもアニメーターさん抜きの会議ばかりでしたけど、どうしてなんでしょうねぇ…」と困惑していた。

俺「上の人間は、ただカッコイイ絵さえあれば、動きの観点とか、効率性とかは関係ないんだよ。」

粒焼「だと思います。せめて作監さんとかだけでも、参加させるべきだと思います…」

粒焼の以前居た会社は、かなり有名で、しっかりした会社なのだが、それでもアニメーターは会議にも参加できず、置き去りだったらしい。

粒焼の言うようにアニメ界は実際、絵を描かない人間の方が、アニメーターより潤ってるというのは事実だろう。
仕事を海外に丸投げして利益を得ている人間、会社にも来ないで多額の給料だけ貰ってる人間、それはどこの世界でもあるのだろうが、特にアニメーターは報われない。

その粒焼は来月には、アニメーターとしての「初給料」が出る。
毎日10時間以上作業して、一カ月かかって稼いだ貴重な金だ。

だが、その額は「一万五千円」にも満たない…

まだ新人だから仕方ないのだが、アニメーターになるのにも金がかかる。
それでもアニメーターの卵達は、何かに取り憑かれたかのように毎日頑張ってる。

その粒焼のいいところは、好奇心と行動力がある点だ。
やはりアニメーターは好奇心と行動力が無いと駄目だ。自分の頭の中だけで勝手に想像していても駄目。
何でも実際に見てみたり、やってみた方が物事は分かり易い。

その粒焼、好奇心が旺盛過ぎて、いろんな所を自転車でチョロチョロしてる。
「昨日はあしたのジョー展に行って来ました。」
「フジオプロに行って、バカボンパパの写メ撮ってきましたよ。」
「トキワ荘の休憩所に行ってきました。」 などなど、暇があるといろんな所を自転車でチョロチョロしてる。

この粒焼、自分では標準語を話してるつもりらしいのだか、時々方言が出る。
それを南に指摘されてビックリしてた。

「ええっ! ホンマですかっ!」

「…」

ホンマだけど、君には頑張ってもらいたい。

そんな俺の「つぶやき」…