オアシス出現!

                                                                                                           2014/10/18





貧乏の俺はよくリサイクルショップを利用する。

そんな行きつけの店に「千円オヤジ」の店がある。
「千円オヤジ」は店名ではなく、勝手に俺が呼んでる名称だ。とにかくここのオヤジは「千円」が大好き。
「これいくら?」と聞くと、「う~ん、それは千円はするんじゃないかなぁ…」と必ず探りを入れてくる。
値段はあって無いようなもの。値段はオヤジの気分次第で決まる。

南と一緒に行った時のこと。南がレトロな絵の付いた缶ペンケースを発見。それが気に入った南は、さっそく店のオヤジに値段を聞いてみた。
オヤジ「う~ん、それは古いから、千円はするんじゃないかなぁ~」と、お決まりのセリフ。

そこで俺が助け舟。「ええっ! 高いよ、だって裏は少し錆びてるぞ。」ふっかけたジャブが通用しないと悟ったオヤジは慌てて、「じゃあ、200円。」

…何だ???…この差額は…安くするにもかなりテキトー…

俺がモニター付きのDVDプレーヤーを発見した時も、「それは千円はするんじゃないかなぁ…」
俺「えっ、いいの? じゃあ買った!」俺の浮かれようにマズイと思ったのか、オヤジは慌てて、「いや、千五百円だ。」と訂正しだした。

マッ、マズイ、今度はこっちのピンチ…

俺「じゃあ、間を取って千三百円にしよう。」の提案に商談成立。

こんな事があってから、俺は掘り出し物を見つけても、オヤジの前では決して顔色を読まれないように、ポーカーフェイスを決め込んでる。
欲しい物には何かとケチ付けて、安くする為にオヤジとのバトルを繰り広げている。

そんな千円オヤジの店で、先日面白い物を発見した。
会社帰りの夜にフラリと店先を覗くと、店の外にダンボールの箱が何個か置いてある。
その箱の中には様々な雑貨が入っていた。その箱を何気なくあさっていると、金色に輝く菊の紋章の朱肉入れがあった。

そこへ店のオヤジが現れた。

オヤジ「その箱はまだ見てないんですよ。」と忙しそうに片付けものをしてる。まだこの箱は中身の値段も付けてないようだ。
俺はその金色に輝く朱肉入れを手に取ると、「これいくら?」と聞いてみた。

オヤジは忙しかったのか、ろくすっぽ商品を見ることもなく、「200円でどうですか?」と言う。
アレ?…千円って言わない…

外は暗闇で商品もあまり見えないようでオヤジは商品に無関心。
菊の紋章入りの朱肉入れなんて珍しいし、シャレで使おうと思った俺はそれを100円に値切った。
ラッキーと思いながら、俺はオヤジの手に100円玉を握らせて店を後にした。

家に帰ってから、金色に輝く朱肉入れをよくチェックしてみると、ナント!!裏に「24K」の刻印が…

こっ、こっ、これは…
「24K」が意味することは、バカな俺でもわかる!

24Kイコール純金…
それも「菊の御紋」がモールドしてある。ひょっとしたら、この朱肉入れは皇族が使っていた物なのか!

俺はあれこれ想像をしてみた。

皇族が引っ越しの時にでも、間違ってゴミの中に紛れ込ませてしまった。そして解体業者の手に渡り、業者も気付かないまま、雑貨としてひと山いくらの価格で、リサイクルショップに流した…
リサイクルショップのオヤジも暗闇の中で、さして期待もしないまま、俺に100円で売ってしまった。そんな想像が頭をよぎった。

想像すればするほど胸はドキドキ…
これが価値ある物ならば、貧乏なこの俺にもまとまった金が入る…

さっそく金色に輝く朱肉入れの重さを量ってみると「80グラム」ある。
金の相場は正確にはわからないが、1グラムニ千円ぐらいはする。それが80グラムだから、「おおっ!」
興奮を抑えて冷静に考えた。いやいや、これがまだどういう物かはわからないし、出所もわからない。とりあえず南に連絡して詳しく調べてもらう事にした。

俺から連絡を受けた南もビックリ!「柳田さん、それは掘り出し物だし、きっと凄い事ですよ!」

俺「いや、俺はこの朱肉入れの付加価値は、どうでもいいんだ。単純に金の重さだけで叩き売ってもかまわない。とにかく一応調べてくれ!」興奮冷めやらない俺は、これから起こるであろう、雑草達との夢溢れる贅沢だけを想像した。

雑草達と温泉旅行。差し入れも豪華だ。「君ら、今日は俺のおごりだ、好きなだけうまい棒食っていいぞ!」

金運にも見放され、雑草プロでの様々な苦労と過酷なまでの精神的な追い討ちの長い長い砂漠の旅。そこへ突如として現れた天国のオアシス。
俺の頭の中は最高潮の興奮と幸福感に包まれた。

それからは、なかなか寝付けず、長い長い夜は更けていった。

翌日、喜び勇んで会社に出勤すると、俺は雑草達に事の顛末を報告。
みんな驚いて、中には「鑑定団に出した方がいいですよ!」と言い出す奴までいた。

雑草プロのスタジオのテンションが最高潮に達した頃、南が出勤して来た。
ところが南の登場と共に…夢ははかなく一瞬でしぼんでしまった…

南の調査によると、その金色に輝く朱肉入れは、純金のメッキを施した商品として販売されていた事が判明した。定価は6000円弱で売られていた商品だった。

昨夜は喜び勇んで、いろんな人に自慢していた。そしてそのうちの一人から、こんなメールが届いた。

金の純度は、24分率で表します。24K=純金100%という意味です。
しかし、24Kのその後ろについているGPは、Gold Plated=メッキという意味です。
つまり、「純金メッキ」という意味ですね。

メッキ品は、いくら純度が高くても、基本的に換金はできません。
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数千円の物を100円で買ったと思えば、確かに得をしたのだろうが、夢だけが勝手に膨らんでしまった俺にはショックだった…

ほんの一瞬だけ夢を見た…一夜限りのはかない夢…
俺の目の前に突然現れたオアシスは蜃気楼だった…

いつか雑草達と「夢の温泉旅行」ができるようにと願いながら、今日も俺はその日暮らしの貧乏と戦っている。



   

  お騒がせな菊の御紋の朱肉入れ。