心は不戦勝
問題のプロデューサー氏は自分の役割が全くわかってない。
穏便に対応すれば何の問題も無かったはずだ。
契約書も存在しないアニメのマンパワーは、お互いの信頼関係で成り立っている。
高飛車で傲慢な態度ではなく、雑草達にエールのひとつでもあれば、ウチの雑草達は意気に感じて徹夜でも頑張る。
そのプロデューサー氏は大人の対応も出来ず、潤滑油どころか火に油を注いでしまった。
人として成熟してない子供じみた人間が、それも大手のプロデューサーなのである。挙げ句の果てに差別発言。
俺はそんな愚かな人間がアニメ界に存在する事実に、驚きと共にショックを受けた。
今となっては怒りもなく、悲しみと憐れみばかりである。
俺が今一番望む事は、アニメーターが「職業」として成り立つ事だ。
雑草プロにも毎年何人もの新人が入ってくるが、ほとんどが金銭苦で辞めていく…
俺がこのスタジオに雇われてから、四年間で50人以上の新人が去って行った…
毎年12、3人の人間がリタイヤする計算になる。
アニメーターとして、超一流になれないからだと言われればそれまでだが、アニメの仕事は「その他大勢」の人間も必要なのだ。
自動車会社だって全員が一流のエンジニアやデザイナーばかりではないはずだ。
その他大勢の組み立て工やメンテナンスする人達で成り立っている。
その人達と労働時間や賃金、待遇面を比較してもアニメーターのその他大勢の人間は遠く及ばない。
ここ雑草プロに居る女の子の言葉「一日10時間以上やってるのに、高校時代の週2のバイトの方がお金が良かった…」
あるいは「アニメーターの仕事って、みんな夢のある人達がしてるんだと思ってたけど、現実はみんな貧乏で、夢の無い人達がしてる現実にショックでした。」 …そう聞かされる俺も貧乏と戦いながら仕事している一人。
それでも雑草達には「夢だけは絶対に捨てるな!」って、励まし続けている。