演出家の苦悩



演出家の橋本(仮名)と久々に会った。

橋本は元アニメーターモドキで(半年ほど動画を経験しただけ)今はベテランの演出家。


橋本「いやぁ、ヒット作の力って大きいよね」
俺「なんかあったのか?」
橋本「今担当してる作品で、下請けの作画の会社に通ってんだけど、みんな僕がアニメに長けてると思ってるんだ…」
俺「いいじゃないか」
橋本「よくないよ」
俺「なんで?」
橋本「知っての通り、僕はアニメの動きやタイミングは不得意だろ?」

確かに橋本はそうだった…半年足らずの動画の経験しかしていない。
その後、制作進行に鞍替えしてから演出になった男だった。
師匠とも呼べる先輩もいないまま、知り合いのコネでいつの間にか演出になってしまった男なのだ。

橋本が話を続ける。「今通ってる作画会社の社長が、原画マン達にこの人は昔ガンダムの演出も手掛けた人だから、動きのタイミングや絵の見せ方などいろいろ教えてもらえ、なんて言うもんだから困っちゃうよ…」

と罰の悪そうな顔で嘆いた。
俺「……」
橋本「今まで見よう見真似で何とかやってきたけど、そこまでの知識や自信もないしね…映画だってろくすっぽ見てないし…」

橋本は続けた。
「今までだって、困った時は作監さん(作画監督)お任せで逃げてきたし…」
俺「軽く受け流してやったら?」
橋本「いや、向こうはガンダム世代でテンション高いし、僕を過大評価してるんだ…」
そんな橋本の本心はそうであっても、現場では威風堂々としているらしい。

チキンのくせにハッタリだけは得意…長い経験でそんな人間を何人も見てきた。
未だ親のスネをかじって自活してない演出家もいる(アニメーターもだが…)
反対にこちらが「ごもっとも」と納得できる優秀な演出家もいる。

ただ、果たして今のアニメ界に「本物」の演出家が何人いるのだろうか?…