数十万枚の動画
アニメ界での40年間の経験で、俺はおそらく50万枚以上の動画は描いているだろう。
動画マンとしてスタートして、途中で原画マンをリタイヤしてから、動画マンのキャリアの方が遥かに長い。単純計算して少なく見積もってもこれぐらいは描いている。
今も新人を指導しながら、動画を描いている。
アニメがセルの時代は、ひと月に2000枚以上の動画を描いていた。
セルの時代は前の章で説明したが、流れで線が引けたのと、キャラクターの絵が現在よりも緻密ではなかった点がある。
さすがに今は2000枚は描けないが、食う為に1000枚は描いている。
俺の名前が画面に出ないのは、前の章で述べたのと、頑張っている雑草達に譲って遠慮している。
50万枚以上の動画と、考えると自分でも驚くが、継続してきた積み重ねの単なる数字だ。
雑草達も俺の描く下描きのスピードに驚くが、違いは経験だけだ。
40年やってる俺と1、2年の差は大きい。はっきり言って動画という作業は原画と違って、少々コツがある。
まず、原画の絵の流れを見て、どこから手をつければ効率的に進められるかが大事になる。
要領の悪い人間は、絵の線や影に翻弄されて「全体の絵」という物を忘れてしまう。
動きにしても動きを考えずに無理やり中割りをするから、ヘンテコな絵になってしまう。
あまり技術的な事は言いたくないが、試行錯誤しながらの経験というものが一番大事だ。
それと、自分のピーク時の時間帯にいかに集中して、効率的に作業する事も大切だ。
また、先輩などといい人間関係を築いて、技術を貪欲に吸収するのも大事。アニメーターは意外と個人主義の人間も多いが、上手くても根暗で人間的に幼稚な奴は誰からも信頼されない。
俺はいつも弱い立場の人間を守ってるから、相手してくれる人間はいっぱいいる。
金だけが回って来ない貧乏人。