また馬鹿が来た





南のお父さんと酒を飲んだ翌週、一人の青年が雑草プロに入ってきた。

ところが、責任者の俺のところに挨拶にも来ない。

用意された机で黙々とトレスの練習をしている。

暗い…限りなく暗い空気をあたり一面に醸し出して座っている。

俺や周りから目線を反らすように、どんよりとした空気を羽織って練習している。

前もってもらっていた履歴書では、大学を卒業した都内に住む24才の青年と書いてあった。

前日に俺は隣の席のミイ(仮名)に面倒をみるように指示しておいたが、ミイとの会話もどこかおかしい…

質問するのにも、面倒くさそうに陰湿で暗い…

しばらく様子を見てみたが、完全に周りを拒否して、まるで廃人のよう…そしていくら待っても挨拶に来ない…

先輩達が気をきかせて話しかけても、先輩達の顔も見ずに携帯画面を見ながらボソボソと話す非常識…

もうコイツは駄目だ。アニメーターとしてではなく、人間として駄目だ。どうせすぐに辞めるだろうと判断した俺は、その日は放っておいた。
翌日、別室に居ると南が入ってきた。「昨日入ってきた新人が辞めさせて欲しいと言ってます」と南。

俺「なんで?」

南「自分の想像していた世界と違うからと言ってます。」

俺「何が違うと言ってるんだ」

南「線の練習ばかりで、自分の好きな絵が描けないのと、一日中椅子に座ってるのが我慢できないと…」

またこれか…

大学を卒業した24才の成人がコレだ…ひ弱で甘ったれ、こんな人間何人も見てきた。勝手な幻想だけを頭の中で描いて、アニメーターを志望する若者が多い…

俺「じゃあ面接を担当した制作と話し合うように伝えてくれ」

その馬鹿新人はさっそく、制作の人間のもとへと向かった。

そして昼休み。

昼休みが終わってスタジオに戻ると、その馬鹿新人が居ない。机の上も綺麗に片付けられてる。

「新人はどうした?」俺が残っていた人間に聞くと「無言で荷物片付けて出ていきましたよ…」

「馬鹿野郎! 何で帰したんだ!」俺は怒った!

「たった一日だけでも、面倒をみた南やミイに挨拶させて帰すべきだったろう! お前らだってあの馬鹿新人と同じじゃないか!」

そういった感性すら失っていく、アニメーター達の非常識に俺はいつも怒ってる。

今回のような事は珍しくない。特にここに来る新人はこういった若者が多い。

このスタジオにも変なのは居る。人間を拒否する人間が、愛や正義のアニメを描いている皮肉な現実…

それは仕方ない、性格が悪い医者だって居るし、変質者の教師だっている。世の中ってそんなものかも。