放たれた病人達
この日本の社会には、普通に生活しながら爪を隠し持ってる人間がどれだけいるのだろうか?
このアニメ界にもそういった恐ろしい人間が存在する。
そういった輩は、一見普通に生活しているから事が起きない限りわからない。
事が起きてもこの業界には厳密なルールが無いから、犯罪者がどこかの会社に潜んでいてもわからない。
いや、わかっていても利用できれば、利用するのがこの業界の常だ。
今までそんな現実を何度も見てきた。前章の嫌代の上司もそんな前科者の一人だ。
過去に重大事件を起こしても、未だ現役で幅をきかせている関係者は何人もいるし、過去にはオウム真理教に協力していた輩までいた。
時には無理やり特定の宗教に誘われたり、それが入社条件のスタジオもあった。
そして怪しい宗教がらみの黒い噂も数多い。
純真で真面目な若者ほど巻き込まれ易い。嫌な事は嫌とハッキリ言える人間は大丈夫だろう。
充分気をつけていても、個人の壊れた突発的な感情の爆発だけは避けられない。
過去には支払いが遅れたという理由で、ナイフを持ってその会社に乱入した事件を引き起こした人間もいた。
今までの経験で、普段おとなしいアニメーターほどキレたら手に負えない。
周りの物体が木っ端微塵にクラッシュする光景は何度も見た。
おとなしい人間ほど不満を一人で溜め込んでしまう。
もっと危ないのが、あきらかに幼女好きな怪しい奴、過去の犯罪を自慢する奴、話が支離滅裂でそれが正義と思い込んでる病的な奴もいる。
中には病院に隔離した方がいい人間まで放たれている。
「俺は昔、府中で起こった三億円事件の犯人を知っている」あるアニメ下請け会社経営者が真剣な表情で話す。興味津々話に聞き入ると、驚くことに犯人はアニメーターとして有名な故・荒木伸吾さんだと言う。
そして延々と荒木さんの中傷を語りだした…
なかなか犯人だという革新的な話に進まないし、しびれを切らした俺は訪ねた。
するとそのスタジオ経営者は「うん、それはだな、その事件が起こった直後に俺は荒木さんの家に遊びに行ったんだ、そしたらテレビが二台もあったんだ、それがキーだよ」と自信満々に言う。
そして「その当時に家に高価なテレビが二台あるというのはおかしいんだ、一台は普通のテレビで、もう一台は中がくり抜いてあって、三億円が入っていたに違いない!」???…
荒木さんが犯人だと言う根拠はたったそれだけ…
そんな話に何時間も付き合わされた事があった。
だが話す当人は至って真剣で、反論すると収まりそうもないから「なるほど」と感心したフリして帰ってきた。
数年前にその御仁に俺の弟子の南は「お前には悪魔が憑いている!」と言われたことがあった。
訳がわからないけど、れっきとした事実。
この雑草プロにはそんな危ない人間はいない。(変わった人間はいるけど)
この雑草プロ以外の頑張っている雑草アニメーター達の為にも、世に放たれた病人達の一掃を願うばかりである。