去り方の下手な若者達



若者達がアニメの世界からリタイヤする一番の原因は、やはり貧困だ。
それはそれで本人の自由だから仕方ない。

だがあまりにも諦めが早いような気がする。
五年以上続ける人間は稀だか、五年以上経験するとそのまま続ける人間が多い。
ここ雑草プロに入ってくる若者は、平均半年ぐらいで辞めていく。長くて二年、早い人間だと数ヶ月。
本番の仕事に入れないまま辞めていく若者もいる。たった一日だけ来て蒸発する若者も何人かいた。
こっちがせっかく手取り足取り教えても、無駄な労力だけで終わってしまう事も多い。
それはもう慣れっこだし、俺としては悔しくもない。いつかホロ苦い思い出になるのは本人だから。

そういった若者達は自分は出来ると過信して入ってくる。しかし画面で見るアニメと作業するアニメとのギャップに驚いて逃げ出す。

逃げ出す若者は別として、一年以内に辞めていく若者達も、辞める理由は正直に言わない。

「実家が破産した」
「親族が犯罪を起こして、すぐに引っ越ししなければならない」
最悪なのが父親の死亡…(嘘だが)

中には突然クソ芝居をして辞めた奴もいた。
前日までいたって元気だったのに、突然床に倒れこんで「ううっ、ボッ、ボッ、ボクはつっ、つっ、椎間板ヘッ、ヘルニアの持病があっ、あるんです…ううっ」腰に手を当てて苦しんでる…
仕方ないから突然の退社を認めて、そっと後を付けてみると、鼻唄歌いながらスタスタ歩いてるそうだったろ? S山君。

利き腕に包帯をグルグル巻いて「腕が複雑骨折しました」と現れた奴などなど…

そんな事が続いたため、今では雑草プロでは突然の退社は認めてない。
辞め方は人それぞれだが、職替えしますと言って、他の会社に行く人間もいる。

「俺は人の上に立つ器だから、プロデューサーになる」と言って辞めてった馬鹿もいた。
それにしても、みんな諦めが早い。そう簡単に一流アニメーターになれるんだったら苦労はしない。

この二流のオジさんだって、食えるようになるまでは数年かかったのだから。
だから二流なんだって? それは言いっこなし。
呆れたのは、全くアニメに興味がないのに入ってくる奴。
就職活動を有利にする為、一年間アニメ会社に居たという実績作りの為だけに入ってきた男もいた。

数年前に大学を卒業と同時に入社してきたハトヤ(仮名)は覚えが最悪だった。
いくら教えても全く成長がなく、馬鹿かと思うぐらいだった。
そのハトヤは親からの仕送りも無いという事だったので(嘘だったが)晩飯はいつも俺がおごっていた。
ところが半年たった頃、ひょんな事からその企みが発覚。
俺にクビ宣言されたハトヤは、俺を罵った。
だから俺は言ってやった。「俺は君を人間として付き合ってたんだ。その目的を正直に俺に話してくれてれば、俺はそれでも君に協力していたよ」

それでもハトヤは、俺を散々罵って去って行った。

でも悔いは無い。一生懸命やったと自負してるから。