ドンデン返し

                                                                                                           2017/08/01





熊本の震災で実家が被害を受けて、アニメを断念して故郷に帰った宮原から返信が届いた。
実家は半壊して大変だったらしい。震災当時は雑草スタジオで、真剣な表情で心配していた宮原の顔を思い出す。
今は故郷で宅配の仕事をして、元気に頑張ってるとのこと。
彼は学生時代にボクシングをしていた体育会系の人間だった。義理人情にも熱く、誠意ある男なので、きっと他の仕事でも成功するだろう。陰ながら心から応援したい。

そんな宮原のように、気持ちのいい人間ならいいが、「利害関係」が無くなれば、多くの人間に無視されるのが現実。
こちらが心配しても、無視されるか余計なお世話とばかりに不快な返信をしてくる輩も多い。

驚く事に、あのセクハラと監禁を救ってやった仮名の「宮城」ですら、まともな返答は返ってこない。というよりも、残念ながら宮城は普通の感情すら持ち合わせていない女子なのだ。
今回の監禁の件でさえ、本人にとっては助けてもらったなどという感情は、これっぽっちも思っていない。
こちらの心配のメールですら何も答えず、まるで俺が宮城につきまとっているかのような返信内容。

言いたくはないが、宮城は社長の弟からセクハラされた時も、そのセクハラから守った人間達を裏切って、セクハラした相手と手を組んだ人間。
バカを見たのは助けた人間。後に散々嫌がらせを受けて、一体誰の為に戦ったのか、みんな宮城の自分本位の行動にカンカンだった。

だが当の本人には全く罪の意識など無いのだ…そういった微妙な人間関係さえわからない。義理や人情よりも、物事を得か損かでしか判断出来ないのだ。
残念ながらそれが宮城という人間の性格なのだ。
社長の弟に太もも触られたり、セクハラされていた当時は、同僚の土条に散々こぼしていたのだ。それなのに辞める前には、その件を兄である社長に問われて、「コミュニケーション」と答えてる。全く訳がわからない…(だろ?)

今回の一連の騒動も宮城にとっては、「私の為に喧嘩しないでぇ~」程度の理解力だったのだろう。
あんな騒動があった今でも、また赤村プロからウマい話でもあれば、飛びついて手を組むだろう。
こういった人間は、いわゆる他人の感情がわからないサイコパスなのだ。それは薄々は感じてはいたが、ここまでとは思ってもいなかった。

俺が赤村プロを辞めたのは、宮城の監禁が原因ではないし、それはキッカケにすぎないから、何を言おうと別にかまわないが、俺の人生において、宮城は堂々と「変人ベスト10」に入る。
実際ああいった騒動で辞めたわけだから、元上司としては心配するのは当然のこと。現在も赤村プロ近くに住んでるのか、先の事は決まったのか、そんな質問にも余計なお世話とばかりに一切答えず、不快な返信…過去の失敗から何も学んで無いのだ。と言うよりも「失敗」したとも思ってない。
そういった人間にまともな事を言っても通じない。以前に裁判で争った男と同じで、人の誠意を悪意に感じるタイプに近い。

それでも不愉快だったから言ってやった。俺はセクハラした「悪羅」とは違う。宮城に恋愛感情も無ければ、どうこうするつもりもない。あまり「うぬぼれ」ないようにと。
もっと本音を言えば、例え宮城が大金をくれてもやらない。得の為なら「何でもする」人間に魅力など感じるはずもない。

こうしていつも馬鹿見るのは毎度のこと。特に来る者拒まずの赤村プロはこういった人間は多かった…
誰でも入れてしまう体制では、まともな人間なんてなかなか来ない。

ここに面白い数字がある。
俺が雑草スタジオに居た年数は、月に換算すると「104ヶ月」だった。
その間に辞めて行った人間が、ちょうど「104人」。つまり月に一人は辞めて行った計算になる。この数字はあくまでも雑草スタジオだけに限るから、会社全体になるとその三倍ぐらいになる。

その雑草スタジオを辞めて行った三割の人間は普通じゃなかった。
言葉はキツいが、俺がそこまで言う「普通じゃない」と言う定義は、アニメに限らずどんな職業に付いても駄目だというレベルの人間を差す。
例えば、入社当日に挨拶も出来ない、会話が成立しない、足し算も出来ない、またはズブの素人のくせに指導を拒否する人間などを差している。

その普通じゃない三割の中の「8人」は、俺に正直に自分の精神が病んでいる事を打ち明けてくれた。(明らかな障害者も居た)
残りの人間は自分が病んでる事さえ理解してなかった。病気だと打ち明けてくれた8人よりも明らかな重度な精神でも、本人は普通だと思っていた。
これも会社の「来る者拒まず」の方針からくるサビだが、そういった人間相手の指導は、心が掻きむしられる事が多かった。
来る人間の大体が、身のほど知らずの「夢見る夢子ちゃん」だった。宮城の場合はそこそこ上手かったが、ここまで精神が純粋過ぎて幼稚だと、もっとタチが悪い。

アニメーターがそうなのか、そういう人間がアニメーターになるのかはわからない。
俺の45年の実体験として言うならば、自分本位のアウトロー的な人間がアニメーターになる傾向が強い。
そんな性格をいい意味で生かせた人間がビッグになっている。

宮城のようにマネキンみたいに何の感情も無く、三十近くになっても、未だ親の仕送りをもらって、感謝の気持ちも無く、自分が「普通」だと思ってる人間も多い。
そういった人間は、悪意が無くても無意識のうちに他人の心を踏みにじって、「心の犯罪」を繰り返すのだ。

あの男もそう。心が純粋過ぎるのだ。逆に宮城と違って心が繊細で優し過ぎるから、宮城のような「不誠実」な人間が許せない。そしてそれを忘れる事も出来ない。いつしかそれが増幅していって暴挙に出る。

だからと言って、俺は宮城に対して恨み辛みは無い。不愉快だけど「病気」なんだから仕方ない…心が幼い「幼稚園児」に腹を立てても仕方ない…宮城はあの男と違って、無視してれば何の攻撃もしてこないのだから。
ただ二人に共通して言える事は、世の中に損得感情だけで、動かない人間がいるという事を理解していないことと、「陰」と「陽」の違いはあれ、何かが破壊してる。
一部の優秀な人間を除けば、アニメーターは関わらずに「放置」しとくのに限る。自分が損するだけだから。

一連の宮城の不可解な言動を相棒の南に伝えたら、南がつじつまの合うひとつの答えを導き出した。
その南の言う説が正解だとしたら、俺の考えは全て覆ることになる。

南「ねぇ、宮城さんが権力に付く人だと言う事はわかっていたでしょう?…最初の頃は私達ベッタリで、いざ私達が一度あの会社を辞めた時は、次の責任者の人にベッタリで、辞めた柳田さんには、手のひらを返したように、もう関わりたくないとまで言った人しょ?」

俺「まぁ、そうだけど。」

南「そこまで言った人が、会社に戻って来たら、普通の人間はその会社に居られない。」

俺「確かにこっちの方が気を使ったけどな…」

南「だから、社長の弟のセクハラもチャンスだと思ったわけ!」

俺「そこまでするか?…」

南「そういった権力者に弱い人は、いつだって権力者に付くのよ。だから、社長の弟にセクハラされた時だって、表向きには嫌がった素振りを見せても、宮城さんにとっては絶好のチャンスであって、嫌ではなかったのよ。でなきゃ私達に内緒で、セクハラした張本人と手を結ぶなんて考えられないでしょ?…私もビックリしたけど、助けたみんなを裏切ってまでそんな事出来ない…」

俺「なるほど…」

南「だから、今回の監禁騒動にしても、一番の権力者の社長が出てきて、宮城さんはチャンスと思ったはず。だから今後も社長とうまくやる為に、セクハラをコミュニケーションだなんて言ったんだわ。そんなこと有り得ないもの。」

俺「…」

南「ところが、柳田さんと社長との過去から続く、因縁の対決とその大爆発に巻き込まれて、辞める方向に巻き込まれてしまった。宮城さん本人は社長よりも、むしろ柳田さんから被害を受けたとしか思ってないと思う。」

俺「!」

南「つまり柳田さんは、宮城さんにとっては有り難迷惑な存在でしかなかった。それは今までの宮城さんの権力に追随した行動が物語ってるでしょう?…どう、それで全てのつじつまが合うでしょ?」

俺「…そうかもなぁ…少しは俺も感じてたけど、俺は一緒にやってきた人間をそこまで邪悪な人間だと思いたくなかったんだ…」

南「私は今までの宮城さんの行動と女のカンで確信持ってる。目的の為なら、何でも出来る人もいるし、柳田さんは利用価値が無くなったと思われただけ。」

俺「…キツいなぁ…もしも、そこまで邪悪な心だったとしたら、俺の唱える精神的な病気の方が、よっぽど救いがあるよなぁ…」

南「厳密に言うと、サイコパスって病気じゃないんだって。堂々とああいった事を出来る人って、病気にしろ正常にしろ、何かが壊れてる事だけは事実よね。どっちにしろ、柳田さんがバカ見たのは同じ。」

俺「いや、バカ見たとしても、そういう人間と出会って少しは勉強になったよ。」

南「柳田さんはお人好し過ぎるよ。それまでの彼女がしでかした行為と、あのバカにしたような返信メールが何よりの証拠。またどこかで権力探して生きていくんじゃないかな。」

う~ん…南の言う推理が一番つじつまが合って納得出来るのだが、そうだったとしたら何とも恐ろしい…
それでも人の心を推し量る事は出来ないが、確かに「結果」だけは南の言う通り、卑しい結果だけが残った…
そうかぁ…俺は宮城にとって、権力者に付くチャンスの目を潰す男だったかもしれないな。
まさに今回も俺はお節介なドン・キホーテだった事は事実…(~_~;)

人間関係って難しいな…そして刺激的。それにしても、俺の心の刺激はいつ落ち着くのやら…