実録・恐怖の村

                                                                                                           2022/10/10





この仕事を始めて来年で、50年目に突入する。
赤村プロで仕事を始め、数々の悪行を目の当たりにして、救いようのない犯罪を告発してきた。今ではその赤村プロの報復を避けるため、言わば人知れず地下で仕事をしている。俺に危害があるならまだいいが、周りに危害が及ぶのでタチが悪い。

高校を中退して17才からこの仕事を始めた、昭和生まれのそんな古い人間だ。時が流れ時代もアニメも代わった。当然昭和の「常識」も変わって、当時は普通に使われていた多くの言葉が、今では「差別用語」として消えていった。
漫画やアニメも現在では問題があり、再版や再放送ができない作品も多い。なかには作品の「タイトル」そのものが差別用語の作品もある。

そんなこの俺も、未だ昭和時代に染みこんだ常識が、なかなか抜けきらない。このHPだって多くの差別用語があるし、時代錯誤的な内容もあるだろう。ただ忠実に書かないと、あの男が現在では差別用語に当たる「狂人」と呼ばれていた事実さえ書けなくなってしまう。その点は御容赦を。
時代遅れの人間だから、最近の映画や漫画やアニメの面白さがよくわからない。音楽や歌に関しては、わかろうとする以前に体が拒否してしまう。だから見たり読んだり聴いたりする物は、ほぼ1990年以前の物が多い。

最近のホラーも怖くない。むしろ実家のあった田舎の幼少期の頃が、刺激がありすぎて精神的に怖かった。
俺の育った村は一種異様だった。自殺者が多く、世に出ない犯罪も多く、可哀想な障害者が多い村だった。

俺が育った実家の隣の竹林では、心中事件があった。隣の家の娘さんが結婚を反対されて、恋人とカミソリで首を切って亡くなった…
また村の神社の参道をまたぐ踏切では、同じ場所で飛び込み自殺が二件発生している。
そのほかにも実家の三つ先の家では、夜中に老婆がつるべ井戸に飛び込んで自殺している。
実家の坂を下った墓場の隣の家では、一番上の兄貴と同級生だった男が自殺した。
自殺者はまだまだ続く。村の寺の住職と教師を兼ねる、先生の跡取り息子も自殺した。
自殺ではないが、すぐ上の兄の同級生は町に出かけてタクシー強盗をして、揉み合いの末に自分のナイフで死んでしまった。
その兄が中学の入学式の日に、教室で村の同級生の男に理由もなく、突発的に襲われて学生服をナイフでズタズタに切られて帰ってきたこともある。

不気味な事もあった。丑三つ時に神社の大木に呪いのわら人形を打ちつける村人もいた。毎夜続くその音に様子を見に行った父は犯人の村人を目撃したらしい。それが誰なのかは、いくら聞いても父は教えてくれなかった。

それ以外にも村には問題がある人間がかなりいた。
一番上の俺の兄貴が村の夜道で、女と間違われて、村の独身の三十男に襲われて格闘になった。三十男は翌日父親に連れられてお詫びに来たが、穏便に済ませた。
その三十男の隣に住む家の二十過ぎの娘もヤバかった。夜中に墓場を徘徊して、犯人がわかるまで近所の住民達を怯えさせた。
その女の家に跡取りの兄が御札を届けに行った時。兄の手伝いで付いていった中学生が、突然その女に包丁を突きつけられた。
「お前は私を御札で殺しに来たのか!」と、包丁の腹で何度も頬を撫でられたらしい。慌ててその女の母親が飛んできて、娘を引き剥がして中学生に怪我はなかった。その日に女の母親が、顔面蒼白で俺の家にお詫びにきたことがあった。

また近所には言葉も話せない凶暴な障害者の幼女がいた。その幼女に兄が飛びかかられて、顔面を引っ掻かれて傷を負った事もあった。そういった危やうい人物が多かった。

近所に住む独身の弁慶に似た坊主頭のおじさんも怖かった。
子供達と遊んでると、その弁慶おじさんが自転車で通りかかった。そして道端に落ちている一升瓶を拾って、中身が残っているか確かめている。それを見た俺達は笑ってしまった。
すると弁慶おじさんが激怒して大声を出して迫ってきた。危険を感じた俺達は必死で逃げた。相手は自転車だから俺達は林に逃げ込んだ。それでも弁慶おじさんは自転車を降りて追って来る。
やっと逃げおおせたと安心してると、突然現れてしつこく追ってくる。一時間ぐらい逃げ回って、やっとおじさんから逃げることができた。
家に帰ってその出来事を父親に話すと父親が言った。「アイツは相手にするな。アイツは子供の時に、親がこづかいをくれないと言って、自分の家に放火して燃やしたんだ。」

その弁慶おじさんのキレかたは普通じゃなかった。時々自分の兄の家に乗り込んでの大喧嘩が度々あった。おじさん同士で大声で罵り合いながら、二人とも手には刃物を持っている。そんな光景を一度目撃したことがある。ちなみにタクシー強盗した兄の同級生は、弁慶おじさんの親族である。

その弁慶おじさんが性格的に少しおとなしくなったのは、結婚してからだった。Σ( ̄□ ̄)!ナント出来たのだ!
相手は弁慶おじさんと同じぐらいの年齢のおばさんだった。そのおばさんも弁慶おじさん同様に変わった人だった。弁慶おじさんとの夜のいとなみを近所のおばさんに吹聴する。
「ウチの人はよぉ、強くてよぉ、アレが毎日なんだ。だがらアソコが痛くてよぉ、どうすればいいんだべ。」
そんな話が村中に回った。子供だった俺にもそんな話が伝わってきた。

性に関しての村のモラルは薄かった。村の校長先生の奧さんが村の資産家のジジイとできてしまい話題になった。また村に住む同級生の女の子の母親が、浮気男と駆け落ちしてしまった。その同級生の父親はよく俺の家に相談に来ていた。そして近所には、ある人物の「二号さん」のおばさんが住んでいて、その子供を育てていた。

一番衝撃的だったのは、近所の若奧さんが旦那が居ない昼間に、舅の爺さんに襲われて、泣きながら俺の母親に助けを求めて逃げ込んで来た時だった。まだ幼稚園児だった俺は、若奥さんの泣き叫ぶ光景を目の前で見た。もちろん大人のする行為の意味合いはわからなかったが、若奥さんの必死の哀願に、爺さんが酷い事をした事だけはわかった。その後そのジジイは息子に追い出されて、近所に小さな家を建てて暮らしていた。

村全体の低いモラルは犯罪も絡んだ。村には「泥棒教師」までいた。自分の勤める小学校に盗みに入って逮捕。新聞でも報道されたが、あるコネでその教師はクビになる事もなく、他の学校に転任して教師を続けていた。現在では有り得ない話だろうが、その教師は俺の同級生の父親だった。
また村の別の教師の奧さんが万引きの常習犯で捕まった。村の交付金は個人の散在で消えた。神社のあがりも村の総代達の懐の中に消えていった。そんな村だった。


それとこれは本人には全く罪は無いのだが、小学校の同級生の昭夫ちゃん(仮名)は、俺の家族を悩ませた。昭夫ちゃんは一般常識があまりわからない障害者だった。
これから書くことは決して障害者を馬鹿にしてる話じゃない。この村を語るうえで昭夫ちゃんのような人が多かったという疑問を呈したその一部なのだ。

昭夫ちゃんは中学を卒業して働きだすと、時々俺の家に来て父や兄と雑談するようになった。ほとんどが異性の話で、いつも片手には大事そうにメモ帳を持っていた。そのメモ帳にはびっしり女の名前が書いてある。
昭夫ちゃんには彼女はいない。メモ帳には自分が知る限りの女の名前が書いてある。オマケにその評価が書いてある。そしていつも延々と女の話をして帰っていく。
俺の家族は昭夫ちゃんが障害者だとわかってるから、昭夫ちゃんを傷付けないようにいつも話を合わせて聞いていた。
誰にも相手にされない昭夫ちゃんは、自分を相手にしてくれる俺の家族を気に入っていたのだろう。度々来ては父や兄にメモ帳片手に「女談義」を披露していた。

だが昭夫ちゃん一人の時はまだいいが、昭夫ちゃんは俺の家に大事な客人がいてもおかまいなし。玄関の待合室にいる客人に対して誰彼かまわず女談義をふっかける。
昭夫「オメエは女はいるのか?」
客人「いえいえ、私はもう歳なんで、そんな人は…」
昭夫「ダメだなあ、オメエは。」初対面の人にそんな失礼な事を言う…それも相手はかなり年輩の老人だ。一方の昭夫ちゃんはまだ十代の青年だ。
昭夫「オメエは栃木県にカミナリが多いのは、なんでか知ってっか?」
客人「いえ、わかりません。確かに多いですね。」
昭夫「それはだなぁ、栃木県は森昌子の出身地なのに、栃木のヤツらは桜田淳子のファンが多いんだ。」
客人「はあっ…???」
昭夫「そんな薄情のヤツらだから、栃木のカミナリ様が怒ってカミナリ落とすんだ。」
客人「はあ???…」
昭夫「オメエはそんな事もわかんねぇのか。日光の二荒山のカミナリ様だよ。怒ってピカピカ!ゴロゴロ!ってなっ。」

客人はタジタジだが、我慢して聞いている…
昭夫「地元の女は大事にしねえとな。じゃあ、俺の知ってる女、教えてやっから。」と自分のメモ帳を取り出して、独特の摩訶不思議な女講義を疲労する。
メモ帳片手に書いてある様々な女の名前を指さして「この女はダメだど。」、「こっちの女は薬屋の女だ。」「この女は隣村の女で、お薦めだ。いい女だどお。」
もちろん紹介してくれる訳じゃない。ただ知ってるだけの話…万事この調子だった。

異性に興味ある昭夫ちゃんだが、相手が女性だと決して声はかけない。逆に女性に声をかけられると、まっ赤になって目を反らして黙りこんでしまう。
それでも神社に参拝に来る男には積極的だった。自ら声をかけては勝手に神社のスポークスマン代わりになる。(何も詳しくないのだが…)

昭夫「俺はここの神主さんと知り合いなんだ。わかんねえ事があったら聞いてくれ。」そして最後には女の話にもっていく…
昭夫ちゃんの人物像に途中で気がついて逃げ出す人もいた。それでも昭夫ちゃんにとっては、自分自身の居場所と存在を示せる場所は、ここだけだったのかもしれない…
昭夫ちゃんは俺の父や兄を慕っていたが、昭夫ちゃんの頭の中には、同級生だった俺の記憶は一切無い。いつも「オメエは誰だ?」と言われていた。

ある時、昭夫ちゃんが働く町工場の建物の地鎮祭に神主の兄が行った時。
兄を出迎えて挨拶している社長と従業員の列の中で、昭夫ちゃんは兄の姿に気が付いたらしい。そして従業員の列をかき分けて、一人抜け出てきた。兄に手を上げて「よお~っ(^_^)/!」と言って兄の目の前にきた。そして兄の肩を叩いて、「今日はよろしくなっ。」と言って、まるで勝ち誇った表情で、社長や居並ぶ従業員達の顔を得意げになめ回したらしい。
帰ってきた兄がこぼしていた。
兄「参ったよ、祝詞の最中に昭夫ちゃんが、みんなに俺のダチだって自慢してんだよ…女の話も俺がよく教えてやってんだって…」

有り難迷惑な昭夫ちゃんだったが、俺の家族は村の人間と違って、昭夫ちゃんを追い返したり、邪険にする事はなかった。

昭夫ちゃんに限らず、俺の田舎には障害者の人が多かった。隣村には他の章で書いた「俺の鉄人28号」のカツジという心優しい聾啞者がいた。
昭夫ちゃんやカツジのような肉体的危害を加えてこないタイプならいいが、この村には危害を加えるタイプが多かった。そしてここでは書けない肉体的障害を持った可哀想な子供が三人いた。

問題なのはこの村では聾啞者のおばさんや、文字の読み書きができないおじさんが数人いたが、そういった人は選挙で騙された。
読み書きができないから、選挙委員に文字を書いてもらう。ところが選挙委員は、自分が応援してる候補者の名前を書いてしまうう。選挙の投票所は実家のすぐ近くだったので、俺の母親はそんな光景をよく目にした。そして障害者を利用したそんな選挙違反をよくこぼしていた。
ある年その選挙会場にあの「包丁女」が現れた。そして柱にしがみついて突然セミの鳴き声を始めた。「みいん、みいん、みんみんみい~!」しばらく鳴いて帰っていったが、辺りを唖然とさせた。その投票所近くの道端では着物をめくって「立ちション」をしてる婆さんが居る。この婆さんの所かまわずする立ちションは有名だった。そんな変人が多かった。

以上述べた事件や出来事は、たったひとつの小さな村で起こった出来事だ。そして現在も存在する。子供心になんでこの村には、自殺者や犯罪者、そして障害者が多いのか、不思議でならなかった。事件やトラブルも含め、まるで何かに呪われたような村だった。
上京してアニメーターになった今でも、俺の周りには変な人間がまとわりつく…

極めつけは赤村プロだろう。社長を含めて数々の変人達と出会った。一言で「病気」と言ってしまったらそれでおしまいだが、周りにはリスクも伴う。そんな出来事が俺には過去からあまりにも多すぎる。
二つ前に書いた昨年まで住んでいた「怒り大テラスハウス」の「幽霊女」と不可解な住民との出会い…引っ越した今現在でも不可解な人物と遭遇する。
ここ半年の間に見ず知らずの老人に突然怒鳴られた。こちらは全く何もしていない。すれ違いざま、どっきりの「コラおじさん」のように大声で吠えられた…何を言ってたのかはわからなかったが、それも今年は男の老人二人と、一人の老婆の計三人にだ。三人とも全く見ず知らずの老人で、三人とも別の場所での出来事だった。

見ず知らずの人間の不可解な出来事は、ここに引っ越す前にもあった。
ファミマに煙草を買いに外出すると、雨の中傘も差さずに、中年女性が裸足でこっちに向かって走って来た。
そして俺の目の前にズブ濡れの姿で立ちはだかった。その女性は目にいっぱい涙を浮かべていた。
そして「なんでそんな事するの?…」と真剣な表情で言う…
俺「えっ、何ですか?…」
見知らぬ女性にそう言うと、女性は再び「どうしてそんな事するの?…」女性の目から大量の涙が溢れた。
女性「ねぇ、どうして、どうしてなの?…」
俺「何の事でしょう?…」
女性は溢れる涙も拭かず、真剣な表情で俺をじっと見つめている…
その常態がしばらく続くと、女性は我に返ったのか「大変失礼をしました。」と言って深々とお辞儀をした。そしてくるりと振り返って、来た道を裸足で戻って行った。

その様子を道路を挟んだファミマで店長が見ていた。ファミマに入ると店長から「何かありましたか?」と声をかけられた。俺が事情を説明すると、店長は「あの女性はウチに買い物に来るお客さんです。そんな変なお客さんじゃないですよ。」とのこと。
考えてみれば、女性が雨の中を傘も差さずに、ズブ濡れで、裸足で涙を流しながら、男に抗議する光景は変に勘ぐられる。店長には全く知らない初対面の女性だと念を押しといた。(^_^;)…

今年になってからの、三人の老人の雄叫びといい、俺がそういった不可解な人物を呼んでしまうのか、幼年期から続くおかしな出来事に関して、もし超能力者でもいるなら調べてもらいたい気分だ。
マンガみたいな話だが、普通の人には経験できない人生を良しと思うしかないのか?…
誰か俺の周りにまとわりつく変な現象、もらってくんない?…(~_~;)