過去との遭遇

                                                                                                           2017/10/12





十月の初旬…
夕方に南の愛娘のなつくちゃん(仮名)と散歩に出た。
本の大好きな、なつくちゃんに、絵本を買ってあげようと散歩に出たのだった。

現在一歳半のなつくちゃんは、まだ言葉は話せないが、こっちの話す日常会話は全部わかっている。
このおじちゃんに慣れているなつくちゃんは、おじちゃんと二人きりの散歩でも喜んで付いてくる愛らしい女の子。

そして本屋に行く前に、駅前のタバコ屋に寄った時のこと。
注文したタバコを受け取ると、後ろからポンポンと誰かに肩を叩かれた。
振り返ると…
「柳田くん…」懐かしそうな笑顔で一人の男が立っていた。
((((゜д゜;))))その男は…

赤村プロ社長の弟「悪羅」だったΣ( ̄□ ̄)!
その瞬間、一緒にいたなつくちゃんが何故か7、8メートル走ってその場から逃げた。そして遠くからこっちを恐ろしそうに見ている…
小さい子が大人とはぐれると、通りは自転車も多いし危険だ。
「危ないよ。」俺はそう言うと、小走りでなつくちゃんに駆け寄った。
そのおかげで俺は、挨拶程度の会話で、その場を離れることが出来た。

どうやら彼もタバコを買いにきたみたいだったが、それにしても、笑みの意味がわからない…
決して俺に敵意のある笑みではなかったが、お互いにいろんな対立と修羅場を経験してきた関係…
俺が逆の立場だったら、声なんかかけない。スルーしてそれで終わり…

長年の騒動とトラブルを考えてみれば、笑顔で会話なんか出来やしない。
それが彼にはわからない。向こうは全てをリセットして、同じ被害者同士での感覚でしかないのだろう…

根源を辿って、冷静に公平に、客観的に言うならば、「悪羅氏本人」もあの社長の「犠牲者」の一人だということは間違いない。
おそらく今でも、家族共々精神的なパワハラと、苦痛を味わい続けていることは想像が出来る。
長年にわたる彼の兄のもたらす数々の問題と、信じられないような悲惨で悲しい出来事で、彼は精神も心も病んで生きてきた。俺はそれをよく知っている。

はっきり言って、雑草スタジオ閉鎖のゴタゴタのキッカケは、社長の弟である彼の会社の金の使い込みが原因だった。
だが、その根源を辿れば、社長の数々の「狂気」意外の何ものでもない。
社長の罪は、どんなに多額の金を積んでも償いきれるものじゃない。多くの人間を生き地獄に追い込んだ。それほどまでの数々の大罪をしでかしている。

俺が「疑惑の声弾」を発表した直後に、床板を剥がして空のスタジオにしたのは、俺の考え過ぎなのか…

それはともかく、偶然にしろ、あの会社に関わった人間の入院患者は数多い。それも普通の病院ではなく、「心の病院」の入院患者が圧倒的なのだ。
社長の弟の悪羅氏も俺は可哀想だとは思う。だが俺は聖人君子じゃない。彼ら兄弟がしてきた事を全てリセットすることは不可能なのだ。
それが可能になるのは、兄の社長自身が心から反省して、悔い改めること意外にリセットは有り得ない。
それが可能ならば、弟の悪羅氏も救われて、本当の彼の姿に戻れることだろう。

未だ社長の影響下にあり、怯えながら生きている悪羅氏や甘崎と、交わす言葉は見つからない…
話したところで、傷の舐めあい程度の会話しか成立しないのだ。甘崎も含め、あの会社にしがみ付かなければ、生きて行けない人間は哀れに思う…
あの会社に関する俺の完全なリセットは、まだ終わってはいない。気さくに今、声をかけられても、釈然としない思いだけだ…

それにしても、なつくちゃんは感性が鋭い。今まで初対面の人間に怯えて逃げた事など一度も無い。きっとおじちゃんの心の拒否反応を瞬時に読み取ったのだろう…

なつくちゃんの感性の凄さは、並大抵じゃない。
おじちゃんが行くとそれを察知して、玄関のチャイムが鳴る前にドアの向こうで待っている。母親の南ですら、突然玄関に向かって走り出すなつくちゃんに驚いている。そんな不思議な女の子なのだ。

先日テレビをつけたら、「アメトーク」で、アニメの話で盛り上がっていた。
その内容は、昭和のアニメチームと、平成アニメチームとでアニメ作品を競っていた。
だが、そもそも時代が違うのだから、その良し悪しを競ったところで何の意味もない。
受けた感動は人それぞれ違うのだから、ウサインボルトとカールルイスを比較するようなものだ。どちらが素晴らしく感動したのかと…

番組自体は楽しかったし、「昭和アニメの芸人チーム」はさすがにプロ!
トークの中に笑いを交えて、番組自体を楽しいものに仕上げていた。
一方の平成アニメチームは、笑いも無く、ガチトークの連続で、その入れ込み方に少々違和感を感じた。
その平成アニメチームには、お笑い芸人までいたのに、完全に自分の仕事を忘れてた…

最近の若者は、過去があったから、現在があるという意識が無い…
その価値観は、「今以外」は「ダサい」、「恥ずかしい」のだ。
他の番組で、ガンダム好きの芸人が、初代御三家の「西郷輝彦」本人に面と向かって、「あなたの歌は、どうせ大した事ないじゃないですか。」と言ってたのを見た時がある。堂々とそう言えてしまう感覚がわからない。

そのアメトークの中で、俺のアンテナにピンと引っかかったのは、司会者の宮迫が、「鋼鉄ジーグ」の主題歌で盛り上がっていたこと。
「んっ?、鋼鉄ジーグ!!…」
この作品は、あの日本中を震撼させた、あの事件の被害者のMさんも関わっていた。
案の定、番組内に流れたオープニング映像には、そのMさんの名前が載っていた。
この頃からMさんの身には、徐々に危険が忍び寄っていた。
鋼鉄ジーグの原作者の永井豪さんも、タイミングが少しズレていたら、作品の鋼鉄ジーグまで巻き込まれていただろう…

そんな話は司会者の宮迫は知るよしもない…ノリノリで鋼鉄ジーグの歌を歌っていた。
その鋼鉄ジーグの主題歌に対して、平成アニメチームの女性タレントが、いみじくも言っていた。
鋼鉄ジーグの歌は「恥ずかしくて歌えない。」と…
歌うのが恥ずかしい人は、前回の話で、歌詞を変えて載せてあるので、こっちの歌詞で歌った方が面白い。(^_^;)
俺は主題歌よりも、この作品に関わったことの方が、いろんな意味で恥ずかしい…
今回の意外な人物との遭遇にしろ、テレビ番組にしろ、ひょんな事から過去の悪夢が目の前を通り過ぎる…
救いは純粋な、なつくちゃんが、俺の心に安らぎを与えてくれる。

だが、子供が苦手なアニメーターは数多い。
俺がまだ会社に居た頃、なつくちゃんが来ても、自ら声をかけるアニメーターは皆無…
みんな完全無視して、もくもくと作業…
「こんにちは」、「元気だった?」など、優しい言葉ひとつ出ないだ。
悪意や悪気は無いのだろうが、そういった感性が普通と違う。

会社を辞め、再びフリーになって、異様な伏魔殿から解放され、人間らしさを今味わっている。