サザエさんと赤村プロ

                                                                                                           2023/07/06





国民的アニメ「サザエさん」で、赤村プロは未だ頑張っているようだ。
エンディングの赤村プロダクションの社名は消えてしまったが、赤村プロの作画スタッフは現在もサザエさんを続けている。社名は消えたものの、その個人名は載っている。
赤村プロの社名がサザエさんから消えたのは、おそらく赤村プロの社名を出すことへのイメージダウンだろう。それとまた何か問題が発生した際の「保険」の意味合いだと、勝手に想像している。
赤村プロの社名を載せなければ、事が起こってもそのリスクを回避できるという判断だろうか。
だが、個人名に切り替わっても関係してるスタッフは、赤村プロの人間に変わりはない。エイケンは発注書や伝票も含め「赤村プロ名義」で仕事を発注している。
また何か事が起こったら、サザエさんの下請け会社と言われても仕方ないが、そういったリスクは避けられない。

まだ赤村プロの名前がサザエさんに出ていた頃、なぜ危険で反社会的な赤村プロが、国民的アニメを作画しているのかと、業界やアニメファンの間で話題になった事がある。それを少々説明してみよう。
おそらくそれはエイケン側の苦肉の策だと想像する。それはサザエさんを描きたいというアニメーターが少ないと思われる事だ。「だからこその赤村プロ」なのだ。

まずはサザエさんの作画システムから説明しよう。
そもそもサザエさんには、アニメーターが「キャラクターの顔を描く」という作業は存在しない。わかりやすく言うなら、メインキャラクターは「写し絵」みたいなものなのだ。
キャラクターの顔は、アニメーターが勝手には描けない。顔は原画も動画も含めて、決められた「サンプルの絵」を写すシステムなのだ。動画の顔の中割りにしても、全て決められた中割りの動画のサンプルが存在する。それをアニメーターは写して作画する。そのサンプルは大小様々なパターンがあり、顔の動きは全てそのサンプルに合わせてトレスするのだ。

このシステムならば、ヘタなアニメーターによって、キャラ崩れの変な絵は存在しないことになる。
このシステムは制作サイドの勝利と言えようが、描き手としては少々物足りない作業だ。だが低レベルの赤村プロにとっては、まさにうってつけの神対応のシステムなのだ。

また歩きや走りのサンプルや設定資料もしっかりしているから、大きな間違いも起こりにくい。そして他のアニメと違って、「崩しの絵」も無いから、サンプルの指示に従っていれば、各アニメーターの技量によって、差が出るような事もない。
要はトレス線が引ければ、動画に関しては赤村プロでも 通用するシステムなのだ。

そういったシステムなので、「絵を描きたい」と願う若いアニメーターは、あまりやりたがらない。アングルもほぼ横位置で、アクションシーンも描けない。そのうえ中割りの顔も描けないとあっては、今のアニメーターにとっては物足りなく感じるのだろう。赤村プロに仕事が回るのは、そんな描き手不足と、赤村プロにとっては、絵に差が出ないシステムはまさにうってつけなのだ。

ただし決してサザエさんという作品をバカにしている訳じゃない。リアルな絵やアクションで勝負する作品じゃないし、むしろサザエさんはアニメの「伝統芸能」なのだ。それは制作サイドの質を重視したシステムと言えよう。

エイケンという会社は、他のアニメ会社にありがちな、高飛車で横柄なアニメ会社とは違う。キチンとした会社で、金銭的にもしっかりしている。サザエさんのギャラは、むしろあの「アンパンマン」よりも高い。
だからといって、今の若いアニメーターは貧乏でも、金では動かない。特に最近のアニメーターは、丸いキャラを蔑視する傾向がある。リアルな絵の方が格上だと譲らない馬鹿もいる。俺が赤村プロの指導者だった頃、「サザエさんをやるぐらいなら会社辞めます。」と言った馬鹿もいた。
サザエさんでは、筆者のマジンガー時代の知人の名前も見かけたが、あくまでも仕事として割り切ったベテランが多いようだ。

サザエさんでエイケンが赤村プロを頼るのは、前記のような理由で「描き手不足」だと思われる。そうでもなければ、赤村プロのような問題のある会社にあえて仕事は頼まない。業界での赤村プロの存在価値は、困った時の最終手段なのだ。
その赤村プロの行き場の無いアニメーターは、そのギャラの半分以上を搾取されながら仕事を続けている。

まさに光あるところに影がある。現在でも下忍の姿はアニメ界の一部に存在するのだ。そして、♪みんなが笑ってるぅ~♪
サザエさんと赤村プロのコラボは、拝金主義の赤村プロの利害と、人手不足のエイケン側の苦肉の策が、一致した結果だと思う。

以上が巷で噂になったサザエさんと赤村プロにまつわる俺なりの経験談だ。
ひとつだけ付け加えたいことは、エイケンと赤村プロとの深い関係性は無い。お尻の噂も聞いた事は無い。
トップページにもあるように、赤村プロとサンライズスタジオの、常識では考えられない関係性は無い。あくまでもビジネスのみの関係だ。

エイケンは他の章でも書いたように、しっかりした会社だから、きっと「罪を憎んで人を憎まず」の精神なのだろう。それがアダにならないように願う。