アニメーターモドキ

                                                                                                           2014/12/26





クリスマスも終わり、もうじき今年も終わる。
振り返ってみれば、2014年の雑草プロは慌ただしかった。

今年だけで14人の人間が辞めて行った。別に驚きはしない。ここは毎年ひと月に一人以上は去って行く。
おそらく来年も多くの若者と、出会いと別れの繰り返しになるだろう。

若者が芸能界に憧れを持つと同様に、このアニメ界にもそんな憧れだけで入って来る若者も多い。
一ファンの延長で、陽の当たる部分しか見てない。そして自分の頭の中だけで、勝手に想像してる。特にここには絵を描ける事など度外視して入って来る人間が多い。それだけならまだしも、まともに社会生活が出来ない若者まで流れて来る。
そんな多くの若者達が雑草プロに来るが、アニメーターとして何とかなりそうなのは、毎年一人ぐらいしかいない。それは事実が物語ってる。

もうすぐ正月を迎えるが、下請けのアニメーターにとって連休が取れるのは、おそらく正月ぐらいだろう。
ここの連中も正月休みは楽しみにしているようだ。そして地方出身の人間は、みんな実家に帰るようだ。

アニメーターは、どちらかと言うと、地方出身で「自活」しているタイプの方がガッツがある。
通勤組みや仕送り組みは、生活に追われる事も無く、金銭的に余裕があるから、わりとのん気なタイプが多い。
そのへん自立して生活してる人間は、アパート代や生活費を確保するため必死で仕事してる。

正月で思い出すのは、俺の知り合いのフリーのアニメーターが、悲惨な正月を経験した事があった。
「サイボーグクロちゃん」というシリーズアニメで、元請けの支払いが滞って、トンズラされてしまった。
金額は30万円以上…
被害にあった人物は子供が三人いる五人家族。子供にお年玉もやれず、家族五人貰ってきた大根の葉っぱを毎日食って、正月を過ごしたそうだ。
家族を養っているアニメーターは、毎月自転車操業で貯金など殆ど無い。(俺も)

まだ子供が小学生の低学年だった時代、俺も似たような経験をした。
子供と約束したクリスマスプレゼントが出来なくなって、途方に暮れていた。
それを察した娘が、「お父さん、あのプレゼントいらないから、コミック一冊だけ買って。」と言われた時は涙が出そうになった。
結局その年のクリスマスは、娘にケーキを食べさてやる事も出来ず、本当にコミック一冊だけしか買ってやれなかった…

あの年のクリスマスは絶対に忘れない!
そう思いながら今も頑張ってる。年末になると、過去のそんな出来事を思い出す。

昔「一杯のかけそば」という話が話題になったが、あれは贅沢な話。
貧乏アニメーターは店での「外食」はしない。店でかけそば一杯の料金を支払うぐらいなら、自炊して「10杯のそば」を食う。
今年の新人で晩飯を会社の炊飯器を使って自炊していた新人がいる。
ある時、台所があまりにも汚いから注意したら、「もう会社の台所は使いませんから…」と言って、その日から自炊を止めた新人がいる。そんなひねくれ者もここには居る。

戦力外で役にも立たないから、今は無視して「生殺し状態」で仕事させてるが、頭が馬鹿だから自分が「生殺し」なのさえわからない。
いや、本人にとっては今の環境が最適なのかもしれない。戦力外で仕事もせかされずに出来、周りともあまり接点が無く仕事が出来る居場所…
ダメなアニメーター「モドキ」に多いタイプだ。

クビにしないのは、究極のお手本。この世に悪があるから善がある。まともな人間の自信と、生きる希望になってくれればそれでいい。
そんなアニメーターモドキも、他人の人生の教訓になってくれればと思いながら…