ドン・キホーテ全快!

                                                                                                           2015/07/18





また一人去って行った。

来る者拒まずの会社には、様々な人間が通り過ぎる…そして社会性を欠如した人間達が、来る者拒まずのアニメ会社に自由を求めてやって来る。
だが、その自由が自分の思い描いてた自由と違っていた時、ここを去って行く。
アニメに賭けるというよりも、アニメなら自分の好き勝手に絵を描き、自由が満喫できるだろうという、思い違いをしてる若者が多い。
そういった若者は突然退社を願い出て、その日のうちに去って行く。

突然の退社は規約違反だが、今までやった分の賃金はいらないという事で即日退社という運びになった。
辞めた人間は、ここではお荷物の新人だったから、仕事で受けるダメージは一切無い。むしろ手間が省けて喜ばしい限り。

今回辞めた人間は十九才の小型(仮名)今年の4月に入って来た女の子だ。
性格的に思い込みが激しく、その思い込みは病気じゃないかと疑うぐらいの自信家だった。
そして教える側の人間が音をあげるほど、物覚えと素直さに欠ける性格の人間だった。
頭の中は全て自己中心的で、自分が「変」だという事さえ気付かない…あきらかに心の病んだ人間だった。
プライドも高く、本番の仕事に入っても、全て自分の思い込みで作業してしまうから、何度もやり直しになり、最後はいつも先輩達が尻拭いをするハメに…

何度注意しても改善はなく、自分流のやり方は絶対に変えない。
そして自分がまだまだ素人の域を出てないにも関わらず、先輩の教えを素直に聞かない。散々自己主張をして自分のプライドを守る。
物覚えの悪さだけは天下一品で、仕事も出来ないくせに変なプライドだけがあった。そして新人の中では一番年下のくせに、年上の同期の女の子達をしきりたがる。

先輩を先輩とも思っていない心が見え隠れする。以前、南に対して「父親が恥ずかしくないですか?」と、言い放った馬鹿である。
この女はどういった環境で生きてきたんだ?…明らかに変だ…

社会性の欠如した性格を置いといたとしても、物覚えがあまりにも欠如している。ここには今まで、自分が病気だという事も気付かないまま、入って来る人間も多い。
別室に呼んで、一度病院で検査してもらった方がいいと、諭した時もあった。ここは曲がりなりにも「プロ」だ。仕事や周りに迷惑をかけ続けるのならば、俺は解決する為に言いたくなくても言わなきゃならない。そう言わなきゃならないほどの異常さだった。

だが仕事でも信じられないような作業を繰り返し、しまいに教えてる人間が二人がブチギレ寸前にまで追い込まれてしまった。
ミスなら仕方ない、だがミスと言うより先輩の指示に素直に従えない、我の強いプライドだけが突出する。それの繰り返しだった。

話をすると自分の出来なさ加減は口では認める。だが心の中では決して認めてないのだ。それは自分のプライドが許さない。
それが証拠にここを去って行った時は、俺に一言の挨拶も無く、今まで仲の良かった同期の人間達にさえも挨拶もせず出て行った。

それでもまだこの程度の人間はマシな方なのだ。このスタジオには、まだまだもっと凄まじい強敵がいる。ここには人の感情が一切わからない人間がまだ複数居る。
まるで「幼稚園児」並みの心なのだ。良く言えば純粋。悪く言えば、自分本位で、他人の事は全く考えられないのだ。
言葉も捨て、感情も捨て、人間の心さえ捨てている。
俺や先輩に失礼な暴言を吐いても、その暴言さえ本人は暴言だと感じる心も無い…

共通しているのは、他人に対しての判断基準がふたつしか持ち合わせていない。
「怒っている」のか「笑っている」のか、この二つの判断基準でしか人を見れないのだ。味覚に例えれば「舌馬鹿」なのだ。
つまり舌馬鹿ならず、人間馬鹿なのだ。そして他人が自分をどう思っているのかさえ一切気にしない。
言葉も捨て、感情も捨て、能面のような表情で自分一人の世界で生きている。

「柳田さん、無理です。話しても無駄です。彼女は今まで生きてきた課程で、人間としての根本的なものが欠如してます。あきらかにサイコパスです。」肩を落として疲れきった表情で土条が嘆く…

何故ここに来るアニメーター志望の若者はこうなんだ! あまりにも多すぎる…
腸の煮えくり返る思いの日々だが、雄叫びあげてたまには吠える。
そうでもしなけりゃ、こっちがおかしくなってしまう。

時々ジーベックの羽原信義君の声が聞こえる…
「柳田さん、そんな輩と同じ土俵に上がってはいけません!」
空耳だけど、羽原君の名言だ。辛くなった時、やるせなくなった時、そんな羽原君のいたわりの言葉が頭をかすめる…

時と場合によってはそれも有りだが、事が違う。
人間拒否者の悪しきパワーが俺を奮い立たせ、さらなる俺のパワーになっている。

クビにするのは簡単だ。クビにしたり、人間拒否者の思うがままにしたら俺の負けだから、本人が音をあげるまで。人の道理を吠え続けてる。
例えドン・キホーテでも、俺はドン・キホーテ柳田だから、毎日全快だ!