俺のつぶやき

                                                                                                           2015/04/01





プライドのレジェンドが去っても、雑草プロは何も変わらない。むしろ手のかかる親戚の子供が、実家に帰って行ったような感覚だ。そして職替えする粒焼も去って行った。

本当に俺の周りにはいろんなドラマがある。
それは俺だけじゃなく、誰の周りにもあるのだろうが、俺の周りは特別刺激的な事が多い。

「柳田さんて仕事で悩んだ事って無いんですか?」辞める前の粒焼きに質問された。
俺「そりゃあ、あるよ。俺は若い時から自分の腕の無さに悩みまくって、後輩にはどんどん追い抜かれて、卑屈になって地下に潜ったんだ。」このHPを最初から読んでる人は、おわかりだと思うが、俺だって青春時代は「つまらないプライド」で隠れるように仕事をしていた時期もある。

そしてある時から開き直った。最低の男が気取ったって、尚更笑われるだけだと気付いた。するとプライドも無くなり体にのしかかってるような重さも消えた。

俺「俺はメジャーなアニメーターじゃなかったし、そんな人間が、私はこれだけ苦労しましたとか、技術論をぶっても意味が無いだろ?、悩みなんて人それぞれ違うし、苦労話なんかするの嫌だからしないだけ。」

粒焼「そうだったんですか…いつも元気だから、挫折なんてあまり無いと思ってました。」

俺「苦労話が出来る人間は成功した人間だけ。俺なんか何ひとつ成功してないもの。」

粒焼「でもここに来るまではずっと一人でフリーでやってきたんですよね。それってキツくなかったですか?」

俺「毎日がアップだったし、そのプレッシャーは毎日あった。誰も助けてくれないからな。でも、その反面自由だった。」

粒焼「えっ! 自由って?…」

俺「自分一人の責任だし、やる事だけやれば、誰にも文句は言われないだろ?」

粒焼「はあ…???」

俺「自分のペースで仕事出来たし、時間の使い方だって自由だった。」

粒焼「柳田さんが長年続いた一番の理由って何だったんですか?」

俺「俺か?…そうだなぁ…他の人はどう思うかわからないけど、俺に限って言えば、やっぱり頭の自由だな。」

粒焼「頭の自由???…」

俺「仕事だけに集中出来るだろ?、仕事中は誰にも頭の中を支配されない。そしてたまにはいろんな事が想像出来る。これが他の仕事だったら、計算をしたり、人を接客をしたり、●●さんの所に営業に行かなくちゃとか、次は何をやらなくちゃとか、様々な縛りがあるだろ? その点この仕事は自分だけの責任で、やる事だけしっかりやれば、頭の中は誰にも邪魔されない。言ってみれば俺はそんな精神の自由が気に入って仕事が続けられたんだと思う。」

粒焼「何となくわかるような気がします。」

俺「でも、やる事はしっかりやらないとなっ。駄目な奴はやる事もやらないで、自分勝手な自由だけを求めるんだ。」

粒焼「この仕事をずっとやっていて、将来の不安とかは無かったですか?」

俺「俺はノーテンキでいい加減だったから、そんなこと一切考えなかったな。金が無くなれば、いっぱい仕事すればいいやって感じだった。特にアニメにまだ元気があった80年代は、仕事がいっぱいあった。夢中で仕事して、気が付いたらジジイになっていた。そんな人生の計画性も無い単なる馬鹿だったのかもな。」

粒焼「いやいや、そんな事は無いと思いますよ。」

俺「いや、いいんだ、その通りなんだ。だから、俺みんなに言ってるだろ? アニメーターとしての最低ラインは俺だって。俺以下じゃ仕事として意味が無い。俺は毎月自転車創業で大変だけど、結婚して子供作って、何とかギリギリ生活してる。その俺以下じゃ、夢も無いし仕事じゃない。単なる道楽か趣味だよ。」

粒焼「つくづくアニメーターって大変だなぁって、身に染みました。」

俺「そうだろ、南もいつも言ってるよ。作業時間と金銭面を考えると、アニメーターよりも大変な職業は無いんじゃないかって。」

粒焼「そうですよねぇ…」

俺「給料制じゃない日本中のアニメーターの収入の平均を時給に換算したら、おそらく400円いかないだろうなぁ。」

粒焼「かもしれませんねぇ…」

俺「ここを辞めた」原画マンのカッパなんか、メカの大群の重いカットを何日もかかってやったんだ。100枚以上の原画でさ、それを時給に換算したら37円だったよ。」

粒焼「ホンマでっか?!」(地が出た!)

俺「ホンマでっせ!(お返し)ここは五割引くから、直接受けたとしても72円。」

それでも、アニメに魅せられた多くの若者達が「金はどうでもいいんです。」と言って、アニメ界に飛び込んで来る。

もうじき雑草プロにも新人達が入って来る。毎年残るのは一人か二人…
リタイアするにしても全力で頑張って、自分に納得してリタイアして欲しい。

粒焼とはいろいろあったけど、最後はキチンと仕事のケジメをつけて、円満退社でここを去って行った。
気がかりなのは、まだ粒焼が次の職業が決まってない事だ。それよりも気がかりなのは、粒焼の最後の言葉だ。
「電柱にいい仕事の張り紙が張ってあったんですよぉ~、マダムのお相手するだけで金が貰えるらしいんです。登録料が必要らしいんですけど、どうですかね?」

…あやしい…非常にあやしい…まぁ、少し痛い目に合うのも君の人生のお勉強。君はお人好し過ぎる。軽傷で笑える吉報を待っている。

そんな「粒焼に俺のつぶやき」

頑張れよ!