大どんでん返し!

                                                                                                           2015/02/13





2日前に入った36歳の新人をクビにした。

事情はこうだ。ここ雑草プロにはいい加減な気持ちで入って来るヤツが多い。
一生懸命に何ヶ月間教えても、飽きて突然蒸発する人間も多い。
それでは会社の利益にもならないし、指導する人間だって馬鹿をみるだけだ。

そういった事情でここのスタジオ独特の特別ルールがある。
本番に入れるまで一万円の「預り金」を預かる事にしている。もちろん本番に入れば返金する。手間だけかかって蒸発でもされたら、何の利益にもならないからだ。それがせめてもの「蒸発防止策」だ。そんな独自の決まりは面接担当の制作の人間には言ってある。

その事を36歳の新人に説明したらキレた。
36歳「そういった事は面接で聞いて無い! ルール違反だ!」目つきがキツネのように吊り上がった。

こっちは何もそんな金で金儲けをするつもりは毛頭無い。いい加減な蒸発と本人の覚悟をうながす為もある。まして頂戴するわけじゃない、真面目に練習して本番に入れたら返す金だ。そして俺は今までも、例え無駄な人間でもやるだけの事はやってきた。
その辺の事情は前日に南が説明したのだが、一切理解せず不信感だけが残ったようだ。そして俺の話にも一切耳を貸さない。「契約違反だ!」を繰り返すばかり。

36歳「ここはそんなブラック企業なのか!」

俺「そこまで言うんなら、だったら今すぐここを去れ!」

36歳「わかりました、何もここがアニメの全てじゃない!」

俺「言っとくけどな、ここ以外で36歳の素人を雇うアニメ会社なんて無いからな。」

36歳「よく言いますね、ありますよ! 他に行きます!」

そして荷物をまとめて無言で出て行った。
その姿を見て俺は最低の男だと思った。
俺に文句を言うのはまだいい。だが例え2日間だったと言えども、指導した南と土条には一声挨拶して去るべきだ。

何が彼をそこまでキレさせたのか?確かに面接の時に制作の人間が説明しなかったのは、こちらの落ち度もあるだろう。
だが、彼は仕事の出来る経験者じゃない。自分の立場もかえりみず、一万円の「預り金」で信念が揺らぐのなら仕方ない。
絵の描けない男の相手するこっちの身になってみろ。

せいせいしたと思ってたら、驚愕の新展開!! Σ( ̄□ ̄)!
制作の人間がナント! 36歳の男をなだめ、預り金を撤回して別のスタジオに入れる事にしたらしい!
南が制作の人間にそれを電話で確認すると、それは事実だった。

まさに「大どんでん返し」。
ブラック企業とまで罵られ、使い者にならない中年男の下出に出てまで、この男が必要なのか…
ああ、…この会社はそこまでして、微々たる利益が欲しいのか…呆れ果て言葉も出ない…
さすがに雑草プロの人間達も呆れ果てて笑っていた。

下請けのアニメプロってこんなもの。特にここは醜い。
俺が唱えるアニメ界はこんなものなのだ。アニメ界は一部の優秀なアニメーター達が幹をささえいる。そして、その他大勢のアニメーターは枝の一部。
そして枝の一部にさえなれないダメなアニメーターを抱える下請けのアニメ会社もある。
そのダメなアニメーターが信用と品位を落とし、それでもそれにすがりつく馬鹿な下請けのアニメ会社…

技量も無いくせに屁理屈だけこねて、使い者にならない人間はいらないのだ。だから俺は会社に嫌われる。
ダメ人間をアニメ界に入れちゃダメなんだ。誰でもアニメーターになれると思ったら大間違い。馬鹿は男が叩き潰す。

無駄だろうが、マヌケだろうが、そんな体質を変えなくちゃならない。だから俺はドン・キホーテ。
まだまだ気力は充分ある!。

トッカーン! 進めえ~!