天国からの帰還

                                                                                                           2015/03/01





南がニューカレドニアから帰って来た。
かすかに日焼けして、ご機嫌な顔で帰ってきた。
現地でダイビングをしたり、山へハイキングをしたりと充分楽しんできたようだ。

考えてみると南は、まさに「父親のヒット曲」をなぞってきたような旅だった。
出発は成田発「北ウィング」(中森明菜)
行き先のニューカレドニアは「天国に一番近い島」(原田知世)
現地の海でのダイビングは、「渚のハイカラ人魚」(小泉今日子)
そして夫と二人っきりで「二人の夏物語」(オメガトライブ)
夜はラブラブの「桃色吐息」(高橋真梨子)
そして2人の愛は「ムテキング」(水木一郎)といった具合に、自分の父親のヒット曲を体験してきたのかもしれない。

歌といえば、南は大学時代に突然電話がかかってきて、「あなた歌手になりませんか?」と言われたらしい。
どこで個人情報が流れたのかわからないが、先方は南の歌も聞いた事がないのに、歌手とはあまりにも変だと思ったらしい。そして断った。
おそらく歌手を餌に、多額の登録料をむさぼり取るような悪質業者だったのだろう。
いっそのこと、お父さんに相談して、一緒に話を聞きに行ってたら、相手はビビったに違いない。
まさかレコード大賞を受賞し、業界でも有名な人物が現れたら嘘も通用しないだろう。

今はどんな所で情報流出があるかわからない。
俺の妻が、ある書店で会員になったら、突然「エッチなアダルト関係」の所から迷惑メールの山。
妻が言うには携帯を変えたばかりで、情報を登録したのはその書店意外は無かったから、その書店から流出したに違いないと怒っていた。

そういえば俺も最近、ひょんなことから変わった情報を得てしまった。
と言うのは、行きつけのリサイクルショップで、携帯電話を700円で買った。
以前に使っていた機種と全く同じ物を見つけた。買った理由は携帯として使うのではなく、カメラとして使い勝手が良かったから、カメラ用として買ったのだ。

ところが、その買った携帯は個人情報が残ったままだった。
驚くことに電話帳には、多くの芸能関係者の情報まである。携帯の電話番号からアドレス、そして自宅の電話番号まである。大物女優、大物歌手、あるいは落語家の名前まである。
いくつか写メも残っていたので、覗いてみると、服や着物の写メばかり。おそらくこの携帯の元の持ち主は、スタイリストか服飾関係の人だと思われる。

なるほど、だから着物を着る落語家や大物歌手や女優が多かったのだ。普通だったら、携帯の情報は削除するだろうに何故だ?
ひょっとしたら、この携帯は落とし物か、盗品がリサイクルショップに流れたのかと、いろいろ想像をしてしまった。
もちろん悪用するつもりは無いが、南が父のヒット曲の連鎖の旅を続けている間に、こちらも芸能関係の連鎖が続いた。

南はまた今日からこの雑草プロでの「刺激的」な人間模様に揉まれ、決して他では味わえない心の鍛錬をすることになるだろう。
南が居ない間、数々のトラブルもあった。よりによって、南が旅立った当日に退社を通告してきた人間も居た。
精神が幼稚園児並みのここのアニメーター達を相手に、それでもいつかは微かな光が射すことを信じて。

「天国からの帰還」は、ひとこと付け加えるならば、「天国から戦場への帰還」なのだ。
例えどんな「悪しき刺激」でも、それは俺の「強力なパワー」になる。それが俺の原動力。
南、気分を入れ替えて頑張ろうぜ。



南とニューカレドニアの海