いかがわしい話

                                                                                                           2015/03/13





「いつか泪橋に行ってみたいですね。」雑草プロの粒焼が言った。
粒焼の言う「泪橋」とは「あしたのジョー」に出てくるあの泪橋だ。
現在その泪橋は埋め立てられ、泪橋の橋の標識しかないらしい。

近々辞める粒焼は東京の「思い出」として、好きだったアニメの舞台になった地を回りたいらしい。
今でも粒焼は数多くのアニメの舞台になった地を巡っている。
関西出身の粒焼にとっては、それが東京の大切な思い出なのだ。

俺「じゃあ、ジョーの少年院時代のネリカン(練馬鑑別所)も行かなくちゃ駄目だな。」俺がそう言うと、「それはどの辺にあるんですか?」と目を輝かせた。
場所を教えてやると、「今度自転車で行ってみます。」と嬉しそうな顔をした。

今やアニメも様々な地が舞台になっている。こんな所までと驚くような場所もある。それでも好きな人間にとっては、血湧き肉踊る気分なのだろう。今はそういったアニメの舞台の本まで出ている。
何の名所も無い普通の町が、突然ドラマなどで取り上げられると、町が突然変わる。過去にそんな経験をしたこともある。

俺が通っていた高校はへんぴな町で、本当に何も無い町だった。周りは田んぼばかりで、ビルなど皆無だった。
月日が流れ、その町がある時代劇の舞台として取り上げられた。実在した人物の連続ドラマで、主人公がその町と多少関わりがあったらしい。
その町の懐かしい高校に、久しぶりに友人と遊びに行って驚いた。
町には数々の土産物屋が出来、お互いの店同士が競い合っていた。
至る所にノボリが立ち並び、「本家●●饅頭」 、「元祖●●饅頭」、など数多くの店が立ち並んでいた。
俺が高校に通っていた当時は、この町にはそんな店は一件たりとも無かった…
店の張り紙を見ると、どこの店も古くからある由緒ある老舗だと書いてある。

勿論そんな怪しい有り難くない物は買わなかった。

何がキッカケで町が変わるのかわからない。ひょっとしたら俺も今まで、どこかの土地で騙されていたのかもしれない。突如表れた「由緒ある物品」を有り難がって買っていたのかもしれない。
最初からそれがわかっていればいいのだが、元祖とか老舗とか付けられると、昔から伝承された由緒ある物として錯覚してしまう。そう思うと、そういった「いかがわしい物品」は全国にどれだけあるのだろうか?
北海道の「マリモ」にしても、土産物用として人間の手で丸められてるとのこと。

いかがわしいと言えば、あるプロデューサーの話。
このプロデューサー、ある大手プロでプロデューサーをしていた後、独立してあるアニメプロダクションを設立した。独立当初は経営の歯車が上手く回ってたらしく、何本かの作品を作っていた。作品名をあげればアニメファンならすぐわかる。
ところが、そのプロデューサーの経営がいい加減で、内部分裂して解散してしまった。

そして数年前ある脚本家から電話があった。「柳田さん、◆◆プロデューサーの居所知りませんか?」話を聞くと、ギャラが支払われて無いとのこと。
そんな電話があって、しばらくしてから、今度はそのプロデューサーの片腕だった松田(家名)という女性から電話があった。
松田女史は元仕上げをしていた女の子で、昔一緒に仕事した事もある知り合いだった。当時彼女と付き合っていた元カレは俺の後輩で、二人の恋愛相談に乗ったこともあった。
また◆◆プロデューサーを探していた脚本家は、今回電話してきた松田女史にかなりお熱だった。アタックしたものの見事玉砕したという関係でもあった。

その松田女史が「今◆◆プロデューサーと一緒にある企画作品を作ってるんです。いろんなアニメーターに短編のアニメを自由に描いてもらって、それを世に出す企画なんです。ですから協力してくれませんか?」という内容だった。
それよりも俺は彼女が◆◆プロデューサーと一緒に行動してるのが驚きだった。
数日前に松田女史に振られた脚本家から、◆◆プロデューサーの黒い噂は聞いていたので、やんわりと断った。

おそらく協力しても、金は支払われる事はないだろう。それにそういった企画ならば、なにも俺に頼む事はない。もっとでメジャーなアニメーターを使えばいいのだ。
そもそも俺は◆◆プロデューサーをあまり信用してなかった。人間的に自分を大きく見せる術に長けた人間だったからだ。そんな「ハッタリ屋」の一人だった。
一時はそんなハッタリ屋に業界も踊らされたのだろうが、まがい者はそう長くは続かない。

そんないかがわしい人間がアニメ界には多数いる。計画倒産をして、また新たに新会社を設立して生き延びるのだ。
国内で信用を無くせば、今度は韓国や東南アジアで活動しているアニメゴロもいる。
「接待付け」で仕事を受注して、受けた仕事は低賃金の海外にバラまいて利益を得る。全く絵を描かない人間の方が潤っているのだ。すでにそんなシステムが出来上がっている。
「文句があるなら、アニメーターなんか辞めればいいんだ。」と言う人間もいる。権力を持った人間は心まで荒ぶ。

だが文句だけは言い続ける。政治と同じで、文句ひとつ出ない世界なんて何の発展すら無い。
今やアニメーターの力では何も変わらない。今後も良くなる事は無いだろう。
だからどうしたいんだって?
どうにもならなくたっていいさ。俺にとってのアニメは単なる生きる道具のひとつ。いろんな人間と絡み合って、良い意味でも悪い意味でも貴重な体験してる。

このホームページを最初から読んでる人ならおわかりだろうが、アニメーターに多いのが、「自己愛性人格障害」、「分裂病質人格障害」、「妄想性人格障害」、の三つだ。たまに「ナルコレプシー」などもいる。
断っておくが、全てのアニメーターがそうあるはずもなく、あくまでも「俺の周り」の40年間の出来事と経験によるものだ。
それがアニメーターという職業が起因してるのかどうかは別として、精神医学の専門家が調べれば、アニメーターという職業柄の興味深い、ある一定のデータが出るとは思う。

今まで様々な困難に巡り会って、勉強したから、少しずつ謎も解けてきた。
アニメーターの俺がなんでこんな事を勉強しなくちゃならないのか…

どんな職業でもその職業に集まる性格の「色」というものはあると思う。アニメーターにもアニメーターなりの性格の色はある。ある程度その仕事をスムーズに進める為、理解も必要だ。だがそれが病的なものが原因だと、また別の問題になってくる。
百歩譲って、画力は下手でもいい。そして一生懸命頑張る人間。願わくば「まともな会話」と「足し算」ぐらいは出来る人間に来て欲しい。

お前はどうなんだいって? 俺か?
俺だって変人。とてもじゃないが、ホワイトカラーの人間の話には付いてけない。
本能的に生きてる馬鹿人間の一人。ただ一生懸命、馬鹿正直に生きてる単なる馬鹿。

さあ、また仕事!