マクナマラのアニメ解説者
2025/04/30先日テレビ東京の、ブラックなアニメーターの労働環境を考えるという番組を見た。
アニメーターの賃金と労働環境はブラック企業に近いと言う話には賛同できるが、その他の話は全く絵空ごとで、トンチンカンな内容だった。
アニメに詳しい専門家だという教授の唱える打開策はアニメーターに「ランク付け」をするという案だった。そしてそのランクによって賃金を支払うというシステムを唱えていた。
まるでそれが名案であるかのように解説していた。
現にそうしたアニメ会社もあるのだからと、他のアニメ会社も見習うようにと説いていた。だが、小さな規模の範囲なら可能だが、アニメ界全体になるとそれは不可能だ。
アニメ歴半世紀以上の経験で言わせてもらえば、下請けの会社は手を変え品を変え、とっくの昔にそれをやって失敗している。またカットごとに賃金を決めていた会社もあったが、うまく機能しなかった。
アニメーターのランク付けは、どだい無理がある。
アニメの仕事が単純な流れ作業なら話は別だが、絵を描くという仕事は精神的な部分も左右する。
こういった策はアメリカがベトナム戦争で失敗した「マクナマラの法則」に近い。
マクナマラの法則は「米兵の感情」は入ってなかった。同じくランク付けの策も、そこには「アニメーターの感情」が入ってない。そして「絵を描かない制作サイドとの人間関係」も入ってない。この策は感情抜きの数値だけだ。 アニメ界はそれができるほど一枚岩じゃない。ランク制は強制的なアニメ業界の試験でもない限り、無理な話だ。そしてそれを「誰が」判断するのかも問題になる。ここに複雑な人間模様が欠けている。
そんなことをしたら、ますますアニメーターの環境は悪くなる。中には「抜けがけ」をするアニメ会社も出てくる。「ウチではワンランク下の料金で請け負いますよ。」というダンピングも出てくるのが過去の事例だ。
またランク付けに反発して辞めていくアニメーターも数多く出てくる。アニメはそれでなくても辛い作業だから、ランク下の人間は、精神的に嫉妬や妬みが芽生えてしまう。
またアニメーターの地位は低く、例えベテランといえども、演出家と感性が合わなければ、精神的なパワハラを受けるハメになる。何度も描き直しを命じられ、精神的にも金銭的にも影響が出る。
感性が違うのは仕方ないが、中には問題のある演出家もいる。演出の立場はアニメーターより強いから、そんなイジメにあって辞めていった作画監督もいる。
過去には精神的に追い詰められて、自殺したアニメーターもいた。アニメ界には、そういった「やり過ぎ」をフォローするシステムや機関さえ無い。あくまでもアニメーター個人の問題で片付けられてしまう。
人権意識が低い今のアニメ界で「ランク付け」をしたら、ますますイジメの危険性がある。そしてランク付けを名目に儲けようとするアニメ関係者も出てくるのだ。
一番のネックはアニメ作品には原画も動画も含めて、必ず「割に合わない仕事」がある。そういったシーンは作業時間だけがかかり、その賃金は中校生のバイト代にも及ばない。
こういった割に合わない仕事は、「上手い人間」が作業しても、誰が描いても時間がかかる。こういった仕事は描き込みが多く、画面上ではアニメーターの力量の差はあまり出ない。
質があまり代わらないなら、仕事を出す方は賃金が安い方を選ぶのが世の常。するとランクが下のアニメーターは、毎回大変な仕事を回されるハメになる。
アニメは時間をかければ、かけるほど質のいい物が描ける。真面目な人間はランクアップの為に、採算を度外視して時間をかけて、ますます貧乏に陥る人間も出てくる。
そして制作サイドで考えれば、アニメ界には様々な人間がいる。上手くてもスケジュールを守らないタイプや、問題のある人間もいる。そういった人間性も含めてアニメーターを判断しないとランク付けに意味はもたない。過去にはあるスポンサーが、制作サイドの反対を押し切って、上手さだけを求めてアニメーターの人選まで決めて、大失敗した例もある。
アニメはマンパワーの協同作業。マクナマラの法則はアニメ作業には当てはまらない。
またアニメーターには得意の絵柄と不得意の絵柄がある。ランク付けは作品によって賃金の額が変動するハメになって、ますます賃金が不安定になる。
その逆に最近は賃金がどんなに安くても、アニメを経験したいという若者も多い。「生活は親が面倒見てくれますから。」と言う。それで絵が描ければいいのだが、小学生並みの絵で自信満々。アニメーターになれば他人を拒否して、好き勝手に絵を描けると思い込んでる世間知らずの若者も多い。そんな人間を何百人も見てきた。そういった連中は金などどうでもいいのだ。
まともな会社はそんな連中は雇わない。ところが、そんな連中を金儲けの為に、さらなる安い賃金で雇う下請け会社がいくつかあるのだ。そんな会社はアニメーターを人だと思ってない。コマの一部の部位ぐらいしか思ってない。
最悪なのは、そんな悪徳アニメ会社にさえ断られた人間が、最後の手段として、「赤村プロ」に行く。
赤村プロの入社の条件は無い。どんなに絵がヘタでも受け入れる。また年齢さえ問わない、未経験者の40過ぎのオッサンでも入れる。足し算もできない若者でも、あるいは精神に異常があっても、そういった人間を利用して食い物にして成り立っているのが赤村プロだ。賃金は元請けの半分以上をピンハネする。そしてあわよくば犯罪に巻き込む。
その赤村プロをうまく利用するのが、業界の悪しき風習…潰れないように資金援助や、おこぼれの人材派遣までする。
残念ながら今のアニメ界には、下忍のようなブラックで「汚い仕事」をしてくれる会社も必要なのだ。でないと現在のアニメの本数は保てない。そんな矛盾が今のアニメ界だ。
アニメーターの低賃金の一番の問題点は、代理店やスポンサーやテレビ局が、アニメ制作会社に無理難題を言わず、対価に見合った作品作りをさせることだ。
今のように対価に見合わない作品を要求するなら、スタジオジブリ並みのギャラを出すべきだなのだ。
ところが、今やスポンサーやテレビ局、それに視聴者やアニメファンがそれを許さない。質の要求はとどまることがない。
80年代のアニメブームの頃には、アニメ作品を揶揄する雑誌まで現れた。作品を録画して一コマずつチェックしてわずかなミスを探し出して、その一コマを掲載して揶揄する雑誌だった。
そんなプレッシャーに負けたのか、この頃からスポンサーや代理店の質の要求が激しくなっていった。
アニメがセルの時代はまだまともだった。面倒で時間がかかって採算の合わないキャラの場合、演出の判断で線や部位を省略する事ができた。当時の業界はアニメーターの事を考えた配慮があった。ところが今やそんな事をしたら、スポンサーからその演出家は仕事を干される。だからみんな採算の合わない仕事をしているのが現状だ。今は監督がオーケーを出した作画でさえ、代理店からやり直しを命じられる事もある。
この改革は一筋縄では解決できない。スポンサーや視聴者の意識改革までしないと解決しない。過激なクレーマーの風潮に翻弄されて、アニメーターが一番割を食ってる事を誰も言わない。
そして人の弱みにつけ込んで、アニメを食い物にしている輩を排除する事も重要だろう。
アニメ界に幻想を抱いちゃいけない。どこの業種だって光と闇がある。あのフジテレビですら化けの皮が剥がれた…
このアニメボムの話だって全て事実。トップページの恐ろしい数々の出来事だって全て真実。本人達は否定してるらしいが「国会図書館」で調べればわかること。
テレビ東京のアニメ解説者の先生、アニメ界にはもっともっと根深い裏事情と深い闇があることを知ってください。
あなたの唱えるランク付けで判断するなら、あなたのアニメ評論は残念ながら、「ランク外」でした。