カウントダウン

                                                                                                           2017/04/25





俺はあと2日でここの会社を辞める。
そしてここを去るからには、甘崎に一点だけクギを刺しておいた。

ここの支払いは、請求書を出してから、金が支払われるのは40日後なのだ。大体のアニメ会社もそうだ。
つまり2ヶ月分の賃金が、辞めた後に支払われる事になる。
この会社は蒸発したり、契約違反した人間には賃金が支払われない。

ところが、会社との契約をきちんと全うして辞めた人間でも、社長が気に入らなければ金を払わない。そんな事がよくある。
辞めた後にリテークが来て、全部社内でやり直したから、支払いは出来ないなどと言い出すのだ。
辞めた後のリテークなど、辞めた人間にはチェックのしようがない。
それで、多くのアニメーターが、タダ働きで、賃金も貰えず、泣き寝入りをした例が数多くある。もちろんリテークなどは嘘なのだが、社長が不愉快だから金は出さない。ただそれだけだ。
そんな仕打ちをされても、危険人物のモンスター会社から早く逃れたい一心で、金を捨てでもここを去って行った人間も数多い。

甘崎と別室でそんな話をした。
俺「わかってんだろ?、今までだってそうして、金が貰えなかった人間が何人も居た事ぐらいは。」
甘崎「うん、知ってる…」甘崎は困った表情で聞いている。お互いにそういった汚いやり口は知り尽くしている。
俺「そんな事があったら、俺は絶対引かないからな。本当にリテークがあったんなら、本人に連絡して戻してくれ。勝手に直したと言って、金は出さないと言い出しても、そんな事は知った事じゃない。もし現実に金が出なかったら、俺は黙っちゃいないよ。」そう甘崎に伝えた。
それは俺だけじゃなく、宮城や流も辞めて行く人間達にも関わる事だ。

俺「本当にリテークが存在するなら、各個人に連絡して、リテークは必ず本人に戻してくれ。」
甘崎は俺の話に了解して戻って行ったが、モンスターの言いなりだから、その約束も少々危うい…
そんな事さえクギを刺しておかないと、この会社はそこまでやる。

そして最後に甘崎には、こう伝えた。
「万が一目が覚めて、どうしようもなくなったら、俺は喜んで証言台に立つから、その時はいつでも俺に言ってくれ。」
甘崎へのパワハラは尋常じゃない。本人は何度も自殺を考えたと公言してる。
「死ぬぐらいなら、裁判起こして大金ぶん取ってやれ!」と、いつも俺は言っている。

俺がこの会社に戻る前は、もっと凄まじかった。
甘崎、居田桑、気部谷(みんな仮名)の各スタジオの責任者逹は、地獄のような仕打ちを受けていた。
その精神的苦痛はもはや地獄絵図…民事で訴えれば、かなりの額の金が取れるだろう。

今回辞めて行く人間の方向性は、大体決まった。
特に宮城こと「嫌代」は、現在作画監督の補佐をしてるから、どこへ行っても何とかなるだろう。
俺は今まで溜まった精神的疲れもあるから、しばらく休む。気力も落ちてるから、復活させないと。

さぁ、もうすぐ悪魔の巣窟から離れて休息できる。あと2日(^_^)