更迭自慰愚

                                                                                                           2017/10/23





先日ホームページにお便りを頂いた。
あまりにも、もったいないお便りだった。こちらは単なるアニメ界の雑魚の一人…
関係者と言っても、胸を張れるような意識も無い…
できるのは当時の茶のみ話程度…

そのお便りをくれた方によれば、鋼鉄ジーグはヨーロッパでも人気があったらしく、映画にもなったとのこと。(知らなかった…)
丁寧なお便りと、こちらの思いも読み取って頂き、ありがたかった。

当時を振り返ってみると、鋼鉄ジーグは、グレートマジンガーの後に関わったと記憶している。
この当時のアニメは、各話の作画監督が違っていたので、作画監督によって絵柄がまちまちだった。
ただ俺が居た所は、メインのスタジオだったので、特に厳しかった。
その鋼鉄ジーグは、パイロットフィルムの動画からシリーズに関わった。

ところが、自分が作業した所は、あまりよく覚えていない。何故か他人が作業した所は覚えている。
パイロットフィルムで、主人公の宙(ひろし)がジーグに変身するシーンの動画は、原画マンの河村さんが作業していた。
このパイロットフィルムの変身シーンは、本編の変身シーンのバンクとして、そのまま使われていた。

この時代はセルの時代で、俺の居たスタジオでは、動画も作画監督がチェックし、トレス線一本でも妥協はなかった。
リテークを食らい、動画を作画監督に持って行くと、「う〜ん、どこが悪いというわけじゃないんだけど、目のニュアンスが違うんだ…」それが小指の爪の半分以下の大きさでもニュアンスにこだわった。
作画監督「動画のトレス線というのは、モロに画面に出るから、線の強弱と質感を意識しながら、慎重にトレスして。」という言葉を何度も言われた。

主人公の宙(ひろし)という名前は、みんな珍しがっていたが、俺だけは驚かなかった。
と言うのは、同じ村に住む小学生の同級生が、似た名前だったからだった。
その同級生は「万宙」と書いて「かずひろ」と読む。昭和31年生まれの彼のアダナは、もちろんマンチュウだった。
この名前の名付け親が、この村の神主の俺の父親だった。
俺の父が名付け親の同級生は多く、それもなかなか読めない…^_^;
他にも「多美」(かずみ)、「吉谷」(よしひろ)、「成男」(なるお)などが居た。

この鋼鉄ジーグをやってた頃の俺は、当時付き合っていた彼女と駆け落ちして、栃木県のある街で同棲生活を送っていた。
毎日電車で都内のスタジオに通って、徒歩も含めると二時間近くかかった。まだ東北新幹線も開通していない時代だった。
特に徹夜明けなどの帰りの電車では、吊革に掴まって寝てしまい、膝がカックンと折れて目覚める事が多かった。

ある日の徹夜明けの帰宅途中、電車で寝過ごしてしまい、気がついたら二駅先…
ホームの時計を見るとまだ夜の10時前。反対側のホームに行って、上りの電車を待ったがなかなか来ない…
たまりかねて駅員に「次の上りは何時ですか?」と聞くと、シラッとした顔で「5時…」
なんと!上りの終電は無くなっていた…(°∇°;)当時の田舎はこんなもの…
しかし冗談じゃない、ホームで半日も待てない。歩くにしても、田舎のひと駅の距離は、都会の三駅以上はある…
まして体は徹夜明けで疲労困憊。とても二駅は歩けない…
仕方ないのでタクシーを拾って帰った思い出がある。

時代はスーパーカーブーム、ロッキード事件、そして俺の同棲時代(後に破局)などがあり、鋼鉄ジーグをやってた頃は、作品よりも、むしろこんな余計な出来事ばかり思い出す。

この当時、まだ元気だったタツノコプロが、「宇宙の騎士テッカマン」の制作に乗り出し、その噂を聞いたスタッフ達は、負けじと闘士を燃やしていた。
だが鋼鉄ジーグが終わる頃になると、在籍していたスタジオ内の分裂とゴタゴタで、多くのスタッフと共に前記の河村さんもスタジオを去って行った…

その後、鋼鉄ジーグは、「マグネロボ・ガ・キーン」へと受け継がれていく。
鋼鉄ジーグは後にリメイクされてシリーズ化されたが、いろんなホロ苦い思い出もあって、一度も見ることは無かった。
鋼鉄ジーグの作品自体は好きだったが、それに関わる内部の人間模様をどうしても思い出してしまう…
こうしてアニメーターは、純粋にアニメを楽しめない部分もある。

最後にお便りをくれた方へ。
彼はアニメに対する思いと意欲は、紛れもなく本物でした。
当時は自分の絵が嫌いで嫌いで、苦しんでいたとのこと。
本人が言うには、「俺みたいに才能の無い人間は、良心的な仕事をするしか、生きる術が無かったんだ…」
その反面、他人を全く信用出来ず、愛情にも飢え、自分以外の人間は悪だった…
「アニメの中の世界でしか」正義に成れなかったのだ…
そして人生を自ら、「更迭自慰愚」にしてしまった…

さらば、尊敬と憎しみの更迭自慰愚。